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総長のことば

平成28年度大学院修了式祝辞

名古屋大学を卒業される皆さん、本日はご卒業、誠におめでとうございます。本日ここに、学部学生2,172名と、大学院の修士及び博士課程1,887名、合わせて4,059名の皆さんが、名古屋大学を卒業します。皆さんはこの名古屋大学で、指導者の先生、友人、先輩、後輩など、多くの人と知り合い、切磋琢磨して本日を迎えられました。また、長い間皆さんを暖かく支えてくださった、ご両親やご家族の皆様にも、心からお祝いを申し上げたいと思います。

 

皆さんは、名古屋大学大学院での厳しい課程を終え、この卒業式・修了式に臨んでいます。いま、皆さんはどのような気持ちでしょうか。名古屋大学のキャンパスで過ごした大学院の日々を思い起こしてください。特に研究活動では、苦しく苦い経験も数多くあったことと思います。それらを乗り越え、本日を迎えられた皆さんは、より人生の目的を明確にしてこれからの新しいチャレンジを始めようとしています。そのような皆さんに、私は大いにエールを送りたいと思います。

 

卒業式にあたり、総長として皆さんに餞(はなむけ)の言葉をおくりたいと思います。メッセージは極めてシンプルです。私の想いは、皆さんに「勇気ある知識人」として、これから大いに活躍していただきたい、ということです。名古屋大学の憲法ともいえる学術憲章は、今から17年前の平成12年、即ち西暦2000年に定められました。その中で、名古屋大学の教育の目標を、「勇気ある知識人」を育てること、としています。勇気ある知識人とは何か、あらためて皆さんと一緒に考えてみたいと思います。

 

20世紀の終わり、私たちは新しい世紀を迎えるにあたって、多くの期待を抱きました。すなわち、科学技術の飛躍的な進歩により、人類社会はより豊かになり、多くの人がその果実を享受して幸せに暮らせるのではないか、という期待です。しかし、21世紀に入ってからの世界は、それまで私たちが想定していた範囲をはるかに超えて、大きく揺れ動いてきました。21世紀初頭の2001年にはアメリカで大規模なテロが発生、その後も世界で大きな出来事が連続して発生しています。ここ1,2年をとっても、世界を揺るがすような大事件が次々と起きていることは皆さんご承知のとおりです。

最近多くの国や地域で台頭してきた保護主義やポピュリズムは、今後世界の在り方を大きく変える可能性があります。この根底には、拡大し続ける貧困や格差の問題があり、また様々な紛争に巻き込まれた多くの難民の問題があります。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の公式発表によると、2014年時点で、世界中で移動を余儀なくされている人、すなわち避難民は約6千万人おり、このうち1年間で新たに強制移動させられた人の数は約1,400万人と報告されています。実にこの5年間で4倍に膨れ上がっています。見方を変えると、毎日4万2,500人の人が家を失い、世界で122人に一人が避難生活をしているという現実があります。

自国の利益を最優先する政策はその国にとってあたり前のことではありますが、一方でグローバル化した現代にあっては、世界的な調和がなされなければ、社会のゆがみは増大し、世界の不安定さはどんどん増していくでしょう。ひいてはそれが自国に跳ね返り、結局は人類全体にとって大きな不利益になることは十分想像がつきます。格差の拡大や難民の増加は、保護主義やポピュリズムの台頭に大きな力を与えているといえるでしょう。ポピュリズムは、論理的な思考よりも、情緒や感情により行動に走る傾向が強く、それが政治の世界でより大きな力をもってきているのが最近の動きであると思っています。

私たちは知識人として、科学的な論理性と高い志に裏打ちされた高度の知識や技術で、世界の人たちが自由に交流し、ともに発展していける社会を作るよう、努力する義務があると思っています。

 

21世紀の世界はこのように、将来の予測が大変難しい、複雑で変化の激しい時代です。そのような時代にあって、「勇気ある知識人」とはなにか、私の考えを述べたいと思います。

第一は高い志を持って主体的に行動する人です。人はなぜ人たり得るのか、難しい問題です。しかし、人はどのような時に生きがいを感じるのか、と問うた時、私自身は、「人の幸せに貢献できた時、あるいは社会のために貢献できた時」、そして「それが主体的な行動でなされた時」、というのが答えではないかと思っています。

2011年3月11日午後2時46分、東日本大震災が発生し、未曽有の被害をもたらしました。この時に名古屋大学附属病院の病院長をつとめていた私は、職員と一緒になって支援にあたりましたが、その時の経験は、私の人生の中で極めて大きなインパクトがありました。名古屋大学だけではなく、日本中の人たちが被災地の支援や復興のために、心を一つにして働きました。被災された方々のために何かをせずにはおれない、そのような思いが日本中を突き動かしたと思います。人のために何かをしたい、社会のために貢献したい、という思いを持ち、そのような思いが実感できた時の喜びや感動は、何にもまして大きいものであったと思います。現代における「勇気ある知識人」は、人の幸せや社会の発展のために貢献しようとする高い志と、主体的にかかわる意識をもつこと、これがまず大切であると思います。

 

第二は、多様性、即ちダイバーシティーへの理解、許容、そして共創、ということです。これまでも述べてきたように、私たちの社会はグローバル化し、国や人種、文化や習慣、宗教や考え方など、異なる属性を持った多様な人々が交流を深めながら、今この瞬間も新しい歴史を作っています。これまで名古屋大学はキャンパスの国際化を進めて来ましたし、また女性の活躍促進も積極的に推し進めてきました。留学生の数は毎年増えており、世界100か国から留学生を受け入れています。正規の留学生だけでも全学生の10%を超えています。また名古屋大学から海外へ出かけていく学生は急速に増えており、短期長期合わせると、昨年度(2015年度)は1,000名を超しています。これは2008年度が146名であったのに比べれば、7倍になっています。ややもすると、内向きだといわれがちな名大生は、この10年で大きく変わりました。全体として、名古屋大学は多様性に富んだ活発なキャンパスに変貌したといえるでしょう。

数の変化だけではなくて、このようなキャンパスでは質の変化も起こります。名古屋大学では多様性をじかに触れることのできるチャンスが飛躍的に増えるのです。単なる知識の世界から、自分の目で見、体で感じて得た生の情報は、皆さんのこれからの人生に大きな財産となると思います。

 

「勇気ある知識人」の三つめの要素は、「前に一歩足を踏み出す勇気を持つ」ことです。これから皆さんがどのような進路に進もうと、私たちの社会が抱えている困難で複雑な課題は何処にでもあり、それらに皆さん自身が果敢にチャレンジして、新しい時代を切り拓くリーダーになってもらいたいと思います。足を踏み出すのには勇気がいります。またそれにかけるエネルギーも相当なものになるでしょう。しかしながら私自身の経験から、「行動するかどうか迷ったとき、何もしないで様子を見る」ことより、「迷ったときには、リスクを冒してでもまず一歩前に足を踏み出す」ことのほうが、はるかに自分を成長させてくれたと感じています。失敗することがあっても、まず行動することで得られるものは、実に大きいと感じています。

そのような経験から、私は座右の銘として、「安定は動の中に在り」という言葉を大事にしています。「安定は動の中に在り」、これから旅立つ皆さんの参考になれば幸いです。

 

最後に、名古屋大学の未来についてお話ししたいと思います。名古屋大学の源流は1871年(明治4年)に創設された仮医学校・仮病院にさかのぼります。2021年には創基150周年を迎えます。また、1939年に我が国で最後の帝国大学となって総合大学の歴史が始まり、これを名古屋大学の開学の年として、2019年には創立80周年を迎えます。さらに、1960年には名古屋大学のシンボルである豊田講堂が当時のトヨタ自動車工業、現在のトヨタ自動車のご寄附により建てられてから、2020年で60周年を迎えます。すなわち、2019年から2021年にかけての3年間は名古屋大学にとって、重要な節目の時期になります。私はこの記念すべき時期に、名古屋大学を一層大きく飛躍させ、世界屈指の大学にしたいと願っています。

名古屋大学は、現在10年後のあるべき姿を全学あげて議論をしています。その中で、特に博士人材の育成にもっともっと力を入れていきたいと思っています。これからの高度知識基盤社会においては、博士人材の活躍こそがわが国の持続的発展を支える原動力であると考えています。そのために、名古屋大学は将来に向けて博士人材のキャリアパスの構築や経済的支援など、大学を挙げて一層、推進したいと思っています。名古屋大学が、地域社会にとっても、在学生や卒業生にとっても、そしてまた我々教職員にとっても、人々の幸せと社会の持続的な発展に貢献する、誇りある大学であるようにしたいと強く願っています。

名古屋大学の一員であるという誇りを胸に、皆さんが大いに活躍することを心から祈念して、私からの祝辞といたします。本日は誠におめでとうございます。