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総長のことば

平成29年度大学院入学式祝辞

 

名古屋大学大学院への進学、おめでとうございます。皆さんは、これまで切磋琢磨して培ってきた力を、大学院というより高度な場で、一層磨き、大きく成長するために、名古屋大学大学院に進学されました。本日ここに、2,239名の皆さんを、新しい仲間として名古屋大学大学院に迎えることができたことを、総長として、心から嬉しく思います。皆さんは、これからの日本および世界をリードしていく人材として、大きな期待を背負っています。大学院はそのようなリーダー人材を育成するチャレンジングな場であります。従って、厳しさもより大きく、立ちはだかる壁もより高いと思います。そのような場に、勇気をもって一歩足を進めた皆さんの決断をまず、賞賛したいと思います。名古屋大学大学院での生活が、皆さんにとって実り多いものとなるよう、総長として、また、先輩として、皆さんに歓迎と激励の言葉を贈りたいと思います。

 

名古屋大学では今、大学院の充実を何よりも重要であると考えています。その理由をお話ししたいと思います。現代の社会は急速に変化しています。産業構造を見ても、蒸気機関の発明から、大量生産の時代を経て、20世紀から現在にかけては、エレクトロニクス、電子機器、パソコン、スマホなどの普及により、情報化社会の時代になっています。さらにその先には、あらゆるデータがインターネットにつながり、人工知能が活躍し、社会全体がスマート化されて、産業だけでなく、人の生き方も一変する時代になると予想されています。本格的な知識基盤社会、あるいはもっと具体的に、あらゆる情報がデジタル化されて集積され、ものづくりも含め、そこから新しい価値が生まれる時代、即ちデジタル社会が到来しつつあります。この時代に必要とされるのは、高度知識基盤社会を支える人材であり、日本や世界にイノベーションをもたらす人材です。このような人材が、働く場所や分野を問わず、思う存分活躍する社会を実現しなければ、日本は世界の潮流から大きく取り残されるでしょう。

 

このような人材に加え、未来社会のビジョンを創りデザインする人材が必要です。それは、高度な専門知識や技術に加えて、社会貢献の高い志と幅広い視野、多様性を理解して受け入れる広い心、そして物事を動かしていくリーダーシップなどの資質を持ち、人類的な課題と向き合って果敢に挑む人材、すなわち「勇気ある知識人」である、と私は考えています。名古屋大学では、キャンパスの多様化を積極的に進めてきました。その柱は世界やアジアと結ぶ国際化と女性の活躍促進です。キャンパスの学生の8人に一人は外国からの留学生であり、また、多くの名古屋大学の学生が留学を経験し、研究者同士の交流も盛んであり、女性の活躍促進のための様々な施策や、社会や産業界との連携に積極的に取り組んできました。名古屋大学は、日本と世界の未来ビジョンを創り、積極的に提言する使命を社会から負託されています。未来社会のビジョン創りには、人文系や社会科学系の研究者の果たす役割も大変大きいものがあります。総合大学である名古屋大学では、様々な専門分野の人たちが議論をし、協働して学問を深めることにより、次世代に向けた新しい価値の創造に貢献したいと考えています。

 

さて、私は最近、協定締結のために米国の中西部にあるオハイオ州立大学を訪れました。オハイオ州は、かつては製造業が盛んな州でしたが、時代の変遷とともに鉄鋼業や製造業などの凋落により、多くの失業者を生んでいる、いわゆるラストベルト(錆びついた地域)の中にある州です。人口は全米で7番目に多く、昨年の米国大統領選挙でも、トランプ政権実現の大きな転換点になった州の一つです。オハイオ州立大学があるオハイオ州の州都コロンバスという町は、このラストベルトの真ん中にありますが、今、確実に町が拡大し、失業率も全米平均よりかなり下回っています。コロンバスには、自動車産業はじめ世界中から多くの企業が進出していますが、オハイオ州立大学があることにより教育水準が高いことから、金融、保険、ロジスティックスなどの新しい産業も起こっています。オハイオ州立大学では、教職員すなわち被雇用者数はコロンバス市役所に次いで2番目に多く、また、数多くの留学生を全世界から集め、多くの企業と共同研究を行っています。さらに、様々な領域で情報イノベーション人材を育成するために、全米でも最大規模のTranslational Data Analytics を立ち上げ、大学を挙げて推進しています。また、名古屋大学の現地法人事務所があるノースカロライナ州でも、大学と地域が一体となって次世代産業の育成に取り組んでいます。ここでは、工学が得意なノースカロライナ州立大学と医学が得意なノースカロライナ大学チャペルヒル校が共同で医工連携の学部を創設し、社会のニーズに対応するため、現在、新しい大学院の創設に取り組んでいます。概して、有力な大学のある地域は、高度な産業の集積が進み、また新しい産業が起こりやすく、次世代に向けた力強い歩みが感じられます。これらの例から言えることは、有力な大学の存在は地域の発展や新しい産業創出の原動力になっているということです。もちろんそれらを支えている大きな力が、大学院における研究や人材育成であることは言うまでもありません。

 

日本は20世紀の後半から現在に至るまで、ものづくりによる産業の集積において、世界で最も成功した国であり、特に名古屋大学が位置する東海地区あるいは中京地区は、長年にわたりその中心となってきました。しかしながら、米国の製造業の盛衰を見ても明らかなように、繁栄を維持するには未来に向けて挑戦し続けることが重要です。日本をラストベルトにしてはいけません。私たちは未来に向けて新しい価値を創造しなくてはなりません。名古屋大学には21世紀の新しい時代を引っ張っていくリーダーを育てる責任があります。同時にまた、皆さん一人ひとりには、未来を切り拓くリーダーたらんとする心意気をもち続けて頂きたいと思います。

 

名古屋大学の自由闊達な気風は、学術研究の面で卓越した成果をもたらしました。21世紀に入ってからノーベル賞を受賞した日本人16名のうち6名が名古屋大学関連の研究者であり、世界的に見ても特筆すべき事実です。また、このような素晴らしい先達に続けとばかり、皆さんの先輩にあたる若手研究者が素晴らしい研究成果を挙げています。一方で社会に飛び出した卒業生は、産業界を中心に素晴らしい活躍をされています。その中には、本日ご来賓としてお招きしておりますトヨタ自動車株式会社名誉会長で名古屋大学全学同窓会会長の豊田章一郎様をはじめ、現代日本の経済と社会をリードしておられる方を、綺羅星のごとく輩出しています。これらの先達は、皆さんの良い目標、あるいはロールモデルになるでしょう。世界は今、多様な価値観や異文化が交錯し、21世紀に入ってから、これまでの常識では想像できなかった世界を揺るがす大事件が次々に起こっています。また、我が国では、世界でも類をみない超高齢社会がすでに到来しており、国の将来に対する不安が広がっています。国の内外で、解決すべき課題は山積しています。皆さんには名古屋大学大学院での研究生活を通じて、「勇気ある知識人」に成長していただきたいと切に願っています。

 

名古屋大学第三代総長の勝沼精蔵先生はこのように言っています。「行動だよ。何もしないで、ある日突然潜在能力は、現れはしない」。また、2014年のノーベル賞受賞者で名古屋大学特別教授の赤﨑 勇先生は、青色LED の発明についてシンプルに、「我ひとり、荒野を行く」、という心境であったと書かれています。皆さんが名古屋大学大学院で過ごすこれからの時間は、楽しみよりも苦しいことのほうが多いかも知れませんが、まさに自分を鍛えて、大きく成長する絶好のチャンスです。是非とも、勇気と希望を持って前に進んでください。名古屋大学での大学院生活が皆さんにとって、実り多く充実したものになるよう、強い願いを込めて、私からの祝辞といたします。本日は大学院進学、本当におめでとうございます。