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総長のことば

平成29年度学部卒業式祝辞

名古屋大学を卒業される皆さん、本日は、誠におめでとうございます。本日ここに、学部学生2,183名、大学院の修士及び博士課程1,855名、合わせて4,038名の皆さんが、名古屋大学を卒業します。皆さんは、この名古屋大学で指導を受けた教員、友人、先輩など、多くの人に支えられ、また、互いに切磋琢磨しながら本日を迎えられました。心から祝福を送りたいと思います。長い間、皆さんを温かく支えてくださった、ご両親やご家族の皆様にも、心からお祝いを申し上げたいと思います。卒業生の皆さんは、多くの困難を乗り越え今日にいたっていますが、入学した時と比べて、はるかにたくましく、また人間的にも大きくなったと思います。新しい門出にあたり、総長として餞(はなむけ)の言葉を贈りたいと思います。

 

世界は今、ますます混迷を極めているように見えます。保護主義やポピュリズムの台頭、国家間のせめぎ合いと戦争の脅威、貧困と格差の拡大、テロや暴力の横行、地球温暖化の進行と気候変動等、人類の幸福と発展を直接脅かす問題が、年々深刻になっています。また、AI、IoT、ビッグデータなどデジタル技術やロボットなどの飛躍的な進歩と普及により、社会が急速かつ大きな規模で変わろうとしています。そのような可能性をはらんだ時代に我々は生きています。さらに、先進国だけでなく、多くの国においては「人生100年時代」と言われるように寿命が大幅に伸び、国や社会の経済状況が厳しい中で、好むと好まざるとにかかわらず、人生の在り方や過ごし方そのものにも根本的な変化が迫られている時代であると言えます。貧困や格差の拡大は、より深刻になるでしょう。

 

このような中で、国際連合は2015年に「SDGs:持続可能な17の開発目標」を掲げて、人類の幸福と平和のために世界193か国が協力して取り組むというメッセージを世界に発信しました。先に述べた数々の課題に対して、人類の英知を集めてそれらを克服しようと呼びかけ、多くの人々が賛同して具体的なアクションを起こしています。今のこの時代はまさに、これらの多くの要素がせめぎ合い、新しい秩序の確立に向けて激しく動いている時代であり、人類社会が大きく変化する分岐点でもあると思います。今こそ、大学とは何か、大学で学ぶ意義とは何か、名古屋大学が目標とする「勇気ある知識人」とは何か、また、「勇気ある知識人」として社会にどのように貢献すべきか、我々が知識人としてしっかりと考え、議論し、社会に発信すべきであると考えます。

 

名古屋大学の憲法ともいえる学術憲章は、今から18年前の平成12年、即ち西暦2000年に定められました。その中で、名古屋大学の教育の目標を、「勇気ある知識人」を育てること、としています。私たちは知識人として、科学的な論理性と高い志に裏打ちされた高度な知識や技術で、世界の人たちが自由に交流し、ともに発展していける社会を作るよう、努力する義務があると思っています。名古屋大学が目指す人材像である「勇気ある知識人」とは何か、あらためて皆さんと一緒に考えてみたいと思います。

第一は、高い志を持って主体的に行動する人です。人はどのような時に人として生きがいを感じるのか、と問うた時、私自身は、「人の幸せに貢献できた時、社会のために貢献できた時」、そして「それが主体的な行動でなされた時」というのが答えだと思っています。現代における「勇気ある知識人」は、人の幸せや社会の発展のために貢献しようとすると高い志と、主体的にかかわる意識を持つこと、これがまず大切であると思います。

第二は、ダイバーシティとインクルーシブネスということです。日本語では多様性と包括性と訳されますが、多様性が存在することの理解、許容だけでなく、積極的に共創を図っていくことが重要です。私たちの社会はグローバル化し、国や人種、文化や習慣、宗教や考え方など異なる属性を持った多様な人々が交流を深めながら共同作業を行って、今この瞬間も新しい価値を創造し、新しい歴史を作ろうとしています。これまで名古屋大学はキャンパスの国際化を進めてきました。名古屋大学は世界100か国から短期・長期合わせて2,500名以上の留学生を受け入れ、正規の留学生だけでも全学生の10%を超えています。また、名古屋大学から海外へ出る学生は急速に増えており、短期・長期合わせると、昨年度(2016年度)は1,000名を超え、8年間で7倍になっています。ややもすると、「内向き」といわれがちな名大生は、この10年で大きく変わりました。単なる知識の世界から、多様性を名古屋大学のキャンパスで直接体験できたことは、皆さんのこれからの人生で大きな財産となることでしょう。

名古屋大学では女性の活躍促進も積極的に推し進めてきました。今後は、障がい者への対策も課題です。多様性にじかに触れることのできるチャンスを飛躍的に増やし、数の変化だけではなく、質の変化、すなわち、インクルーシブなキャンパスの実現を目指さなくてはならないと考えています。

 

「勇気ある知識人」の三つ目の要素は、「前に一歩足を踏み出す勇気を持つ」ことです。これから皆さんがどのような進路に進もうと、私たちの社会が抱えている困難で複雑な課題はどこにでもあり、それらに皆さん自身が果敢にチャレンジして、新しい時代を切り拓くリーダーになってもらいたいと思います。皆さんは、今後、様々な道に進みますが、それがどこであろうと、皆さんには「勇気ある知識人」として存分に活躍していただきたいと思います。

足を踏み出すのには勇気がいります。古い常識を打ち破り、リスクを恐れず足を一歩踏み出す勇気が必要です。私の経験から言えば、行動するかどうか迷ったとき「何もしないで様子を見る」ことより、「リスクを冒してでも、まず一歩前に足を踏み出す」ことのほうが、はるかに自分を成長させてくれます。失敗することがあっても、まず行動することで得られるものは、実に大きいと感じています。

 

そこで今日、皆さんに送りたいキーワードは、「青春」と「勇気」です。メッセージは極めてシンプルです。「一生涯、勇気をもって青春を追い求めよ!」ということです。青春とは何か。米国の詩人、サムエル・ウルマンは「青春」という詩を残しており、岡田義夫さんの名訳で多くの人々に感動を与えています。その詩の中でウルマンは、「青春とは、人生の時期のことを言うのではなく、心の持ち方を言うのである。優れた創造力、固い意志、燃えるような情熱、怯懦を退ける勇猛心、安易を振り捨てる冒険心を青春という。年を取るだけでは人は老いない。理想を失ったときに初めて人は老いる。歳月は皺を増やすが、情熱を失うと精神が委縮する」と言っています。卒業する皆さんには、ぜひ、勇気を持って一生涯青春を追い求めてほしいと思います。

 

最後に、名古屋大学の未来についてお話ししたいと思います。名古屋大学の源流は1871年(明治4年)に創設された仮医学校・仮病院にさかのぼります。2021年には創基150周年を迎えます。また、1939年に我が国で最後の帝国大学となって総合大学の歴史が始まり、これを名古屋大学の開学の年として、2019年には創立80周年を迎えます。さらに、1960年に名古屋大学のシンボルである豊田講堂が当時のトヨタ自動車工業、現在のトヨタ自動車のご寄附により建てられてから、2020年で60周年を迎えます。すなわち、2019年から2021年にかけての3年間は名古屋大学にとって、重要な節目の時期になります。私はこの記念すべき時期に、名古屋大学を一層大きく飛躍させ、世界屈指の大学にしたいと願っています。そのため、名古屋大学は、これまでの伝統を受け継ぎながら、次の10年でどのような大学に発展するべきか、全学をあげて議論をしています。

昨年、国が新たに設けた「指定国立大学法人」の指定に向けて名古屋大学が提案した構想は、そのような議論を踏まえたものです。去る3月20日に文部科学大臣から指定を受け、これまで東大、京大、東北大、東工大、名大の計5大学が指定国立大学法人になっています。指定国立大学法人は、いわば日本を代表する大学として、国際競争性を備え、大学改革を推進し、社会の持続的発展に貢献していくトップランナーとして期待されています。指定国立大学法人の指定は、まさに、これからの名古屋大学の新しい10年を切るスタートに相応しい門出であると考えています。

 

このような時期に皆さんは卒業されますが、常に名古屋大学の一員であり、名古屋大学が母校である、という誇りを胸に、様々な場で大いに活躍することを心から祈念して、私からの祝辞といたします。本日は誠におめでとうございます。