東北大学大学院理学研究科の岩井伸一郎教授、川上洋平助教、石原純夫教授、中央大学理工学部の米満賢治教授、東北大学金属材料研究所の佐々木孝彦教授、名古屋大学大学院工学研究科の岸田英夫教授、分子科学研究所の山本浩史教授、川口玄太特任助教らの研究グループは、有機超伝導体に極めて強い光パルスを照射した瞬間、光が増幅される現象(誘導放出)が起こることを発見しました。さらに、この誘導放出は、超伝導の発現の仕組みとも関係していることが明らかになりました。今後、銅酸化物や鉄ヒ素系などの高温超伝導の機構解明に役立つことが期待されます。
この成果は、2018年6月25日午後4時(ロンドン現地時間)英国科学雑誌「Nature Photonics」のオンライン版に掲載されました。
● 有機超伝導体注1)において光の増幅現象(誘導放出)を発見
● 誘導放出の時間応答の解析から超伝導の機構を提案
● 銅酸化物や鉄ヒ素系高温超伝導体への応用によって高温超伝導注2)の機構解明が期待
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注1)有機超伝導体
超伝導は、水銀、鉛、ニオブなどの単一元素からなる物質のほか、銅酸化物、鉄ヒ素などの化合物においても観測されるが、多くの超伝導体は、金属元素を含んでいる。一方、1970年代に導電性ポリマー(2000年ノーベル化学賞)が発見される以前は、(金属元素を含まない有機物のみの化合物としては)超伝導はおろか、通常の”金属”をつくることでさえ困難であった。しかし、有機物のみからなる超伝導体の研究は1970年代の後半に始まり、1980年代には、TMTSF (テトラメチルテトラセレナフルバレン)やBEDT-TTF(ビスエチレンジチオテトラチアフルバレン)と呼ばれる分子の化合物において、マイナス270~260度(絶対温度0.3 K-10 K)程度の転移温度の超伝導が観測された。その後、金属をドープしたフラーレン(C60)固体ではより高い転移温度(~30 K)が観測されている。これらの有機超伝導体の中で、本研究の対象物質であるBEDT-TTF化合物は、銅酸化物の高温超伝導体と同様に、モット絶縁体(クーロン反発)の効果によって電荷が動けなくなった絶縁体)に関係した機構(クーロン反発や反強磁相互作用)が示唆されているが、いずれの物質系でも詳細な機構は解明されていない。
注2)高温超伝導
1980年代後半、銅酸化物YBa2Cu3O7-δ(イットリウム系) や Bi2Sr2Ca2Cu3O10(ビスマス系)など、液体窒素温度(-196度、絶対温度77 K)より高温で超伝導となる物質が発見された。その後2008年には、鉄ヒ素化合物の超伝導体LaFeAsO1-XFX(転移温度マイナス240度、絶対温度~30 K)が注目された。銅酸化物では、モット絶縁体に対してキャリアドープを行うことによって超伝導への転移が起こる。一方、鉄ヒ素系では、さらに複数の軌道がからみあうことが重要だと考えられる。いずれも、BCS理論では説明できないとされ、長年の研究にもかかわらず、詳細な機構は明らかにされていない。
注3)ポンププローブ分光
ポンプ光(励起光)を物質に照射することで起こされる電子状態や構造の変化を計測するため、続けてプローブ光(計測光)を物質に照射して反射率や透過率の変化を調べる方法。ポンプ光、 プローブ光にそれぞれ数フェムト秒の幅のパルス光を用いて、ポンプ光とプローブ光の照射時間差を光学遅延回路で制御することにより、超高速時間分解分光が可能になる。
雑誌名: Nature Photonics
論文タイトル:Nonlinear charge oscillation driven by a single-cycle light field in an organic superconductor (単一サイクル光電場によって駆動される有機超伝導体の非線形電荷振動)
著者:川上 洋平、天野 辰哉、米山 雄登、赤峯 勇人、伊藤 弘毅、川口 玄太、山本 浩史、岸田 英夫、伊藤 桂介、佐々木 孝彦、石原 純夫、田中 康寛、米満 賢治、岩井 伸一郎
DOI番号:10.1038/s41566-018-0194-4