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医歯薬学

2021.02.19

新たな神経芽腫尿中バイオマーカーの特定

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院医学系研究科小児外科学の横田 一樹 助教、内田 広夫 教授、希少性・難治性がん解析研究講座の檜 顕成 特任教授は、(株)日立製作所の協力のもと、神経芽腫患児の尿中代謝物の網羅解析(液体クロマトグラフ質量分析計※1)により、神経芽腫に重要な 3 つの代謝経路を特定し、これら 3 つのバイオマーカー(3-methoxytyramine sulphate(3-MTS)、cystathionine(CTN)、cortisol(COR))の予測値※2を使用することで神経芽腫患児(15 例)と対照群(39 例)を区別することに成功しました。神経芽腫は脳腫瘍を除いた小児期発症の固形腫瘍のなかで最も頻度が高く、高リスク神経芽腫の 5 年無増悪生存率は 30-40%と予後不良で小児がんによる死亡原因第 2 位の疾患です。神経芽腫の診断には HVA/VMA が使用されますが、時にこれらのバイオマーカーが偽陰性となる神経芽腫症例を認めていました。本研究では神経芽腫患児 15 例において従来のバイオマーカーである HVA/VMA の予測値を使用した場合、予測値が偽陰性となる症例を 2 例認めました。一方、網羅解析で特定した 3 種類(3-MTS、CTN、COR)の新たなバイオマーカーの予測値は神経芽腫患児 15 例全例で陽性となりました。以上より、網羅解析で同定した異なる代謝系の 3 種類の尿中代謝物は神経芽腫の診断に有用なバイオマーカーとなる可能性が示されました。同様に、他のがん種においてもがん種特有の代謝経路を特定し、各がん種に貢献度の高い尿中代謝物を組み合わせることで、がんの診断に有用なバイオマーカーとなることが期待されます。
本研究成果は、2021 年 2 月 18 日付(日本時間 19 時)国際科学雑誌 Scientific Reports に掲載されました。


【ポイント】

○ 神経芽腫患児の尿中代謝物の網羅解析(液体クロマトグラフ質量分析計)により、神経芽腫に重要な 3 つの代謝経路を特定し、これら 3 つのバイオマーカー(3-methoxytyramine sulphate(3-MTS) 、cystathionine(CTN)、cortisol(COR))の予測値で神経芽腫患児と対照群を区別することに成功しました。
○ 神経芽腫患児 15 例において従来のバイオマーカーである HVA/VMA の予測値を使用した場合、予測値が偽陰性となる症例を 2 例認めました。一方、網羅解析で特定した 3 種類(3-MTS、CTN、COR)の新たなバイオマーカーの予測値は神経芽腫患児 15 例全例で陽性となりました。
○ 他のがん種においてもがん種特有の代謝経路を特定し、各がん種に貢献度の高い代謝物を組み合わせることで、がんの診断に有用な新たなバイオマーカーとなることが期待されます。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら


【用語説明】

※1 液体クロマトグラフ質量分析計

液体クロマトグラフ(HPLC)に量分析計(MS)を結合させた装置で、質量スペクトルによる分子構造や分子量の推定、成分の同定・定量の分析が可能
※2 予測値
予測値=係数xバイオマーカー1の相対強度+係数xバイオマーカー2 の相対強度+係数xバイオマーカー3 の相対強度


【論文情報】

掲雑誌名:Scientific Reports
論文タイトル:Identification of novel neuroblastoma biomarkers in urine samples
著者: Kazuki Yokota1, Hiroo Uchida1*, Minoru Sakairi2,3, Mayumi Abe2, Yujiro Tanaka1, Takahisa Tainaka1, Chiyoe Shirota1, Wataru Sumida1, Kazuo Oshima1, Satoshi Makita1, Hizuru Amano1, Akinari Hinoki3
所属:1 Department of Pediatric Surgery, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya 466-8550, Japan.
2 Hitachi, Ltd., R & D Group, Centre for Exploratory Research, Tokyo 185-8601, Japan
3 Department of Rare/ Intractable Cancer Analysis Research, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya 466-8550,

Japan
DOI:10.1038/s41598-021-83619-w
English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Sci_Rep_210218en.pdf

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 檜 顕成 特任教授

 https://www.med.nagoya-u.ac.jp/pedsurg/index.html