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医歯薬学

2021.03.02

膵癌の「隠れ転移」を発見! ~転移性膵癌治療への応用に期待~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院医学系研究科腫瘍外科学の江畑 智希(えばた ともき)教授と山口 淳平(やまぐち じゅんぺい)病院講師らの研究グループは、膵臓の前癌細胞(癌になる前の細胞)が肝臓と肺に転移し、かつ、その臓器の細胞であるように装って隠れている事を明らかとしました。膵癌は膵臓に発生する悪性腫瘍であり、近年の医療の進歩にもかかわらずその 5 年生存率は 10%程度にとどまる難治性悪性腫瘍です。一般的に膵癌は進行癌になってから他臓器に転移すると考えられていますが、実は早期癌の段階で全身に転移するという報告もあり、その詳細は明らかではありませんでした。研究グループはこれを明らかにするために、遺伝子改変マウスモデルを使って癌になる前の細胞(前癌細胞)、早期の癌細胞、進行期の癌細胞を蛍光色素で着色し、その行方を検討しました。結果、これらの細胞は血液の中に侵入し肝臓に転移することが確認され、驚いたことに、前癌細胞がもっとも転移しやすいことが明らかとなりました。しかも肝臓に転移した前癌細胞は肝細胞として生息しており、見た目には転移であると判別できないことも判明し、これを「隠れ転移(stealth metastasis) 」と命名しました。また肺にも同様の隠れ転移が存在し、この隠れ転移が癌になる過程も確認されました。本研究の結果により、膵臓の細胞は癌になる以前に他臓器に転移し、そこでその臓器に成りすまして生着し、その後癌化して腫瘍になるという驚くべき生体が明らかとなりました。今後、この隠れ転移を発見する方法や治療法が開発され、膵癌治療に応用されることが期待されます。
本研究は日本学術振興会科学研究費助成事業(基盤研究 B)の支援により実施されました。
研究成果は 2021 年 3 月 1 日に米国科学雑誌「Oncogene」にオンライン速報版で掲載されました。


【ポイント】

○ 一般的に膵癌は進行癌になってから他臓器に転移すると思われていましたが、実は癌細胞になる前から転移することが明らかとなりました。
○ このように早期転移した細胞は、転移先の臓器に成りすまして隠れている事が判明しました。
○ 隠れ転移が正体を現す前に治療してしまう、究極の予防的治療法の開発が待たれます。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【論文情報】

掲雑誌名:Oncogene
論文タイトル:Premalignant pancreatic cells seed stealth metastasis in distant organs in mice
著者:Junpei Yamaguchi, Toshio Kokuryo, Yukihiro Yokoyama, Tomoki Ebata, Yosuke Ochiai, Masato Nagino
所属:Division of Surgical Oncology, Department of Surgery, Nagoya University Graduate School of Medicine
DOI:10.1038/s41388-021-01706-8
English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Onc_210302en.pdf

 

【研究代表者】

医学部附属病院 山口 淳平 病院講師

https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_J/laboratory/clinical-med/surgery/oncology/