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医歯薬学

2021.05.07

遺伝性骨髄不全症の診断プロセス向上に期待 ~骨髄不全症における血球テロメア長の測定の意義~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院医学研究科小児科学の高橋 義行(たかはし よしゆき)教授、村松 秀城(むらまつ ひでき)講師、成田 敦(なりた あつし)助教、三輪田 俊介(みわた しゅんすけ)大学院生らの研究グループは、小児骨髄不全症 133 名に対して次世代シーケンサー※1 を用いた網羅的遺伝子解析とテロメア長の測定を行い、テロメア長の測定が遺伝性骨髄不全症の診断に有用であることを報告しました。骨髄不全症※2 は骨髄※3 の中で血液が作られなくなる病気で生まれつき遺伝子に異常のある遺伝性骨髄不全症(IBMFS)※4と、自己免疫的な原因によって起こる後天性再生不良性貧血(AA)※5にわけられます。骨髄不全症を治療する際には IBMFS と後天性 AA とで治療法が異なるため、両者を区別することが重要ですが、IBMFS の臨床症状は様々であり、特徴的な症状がみられない場合には診断が困難な場合があります。テロメア※6 は DNA の分解や修復から染色体を保護する役割があり、老化とともに短縮することから加齢性変化を示すマーカーとされています。IBMFS のうち、遺伝性角化不全症(DC)※7はテロメアに関連する遺伝子の異常が原因であり、テロメア長の著明な短縮が特徴です。一方で、DC 以外の IBMFS や後天性 AA においても、テロメア長の短い症例が報告されています。本研究グループは 133 例の小児骨髄不全症患者のテロメア長を測定し、IBMFS では後天性 AAよりもテロメア長が有意に短縮していることを示しました。さらに、統計学的解析を用いてIBMFS の診断に有用な基準値を設定し、DC の 91%、DC 以外の IBMFS の 60%でテロメア長が基準値よりも短縮していることを示しました。これらの結果から、テロメア長の測定が DC だけでなく、IBMFS の補助診断としても有用であることが示唆されました。
本研究成果は、ヨーロッパ血液学会(European Hematology Association)より発行されている科学誌『Haematologica』に掲載されました(米国東部標準時間 2021 年 4 月 22 日付の電子版)。


【ポイント】

○ 骨髄不全症は遺伝性と後天性に分類され、両者を区別することは治療方法を選択する際に重要です。
○ 小児骨髄不全症 133 例を対象として次世代シーケンサーによる網羅的遺伝子解析とテロメア長測定を行い、遺伝性骨髄不全症の患者では後天性骨髄不全症の患者よりもテロメア長の短縮がみられることを示しました。
○ 骨髄不全症の診断時にテロメア長を測定することで、遺伝性骨髄不全症の診断プロセス向上が期待されます。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら


【用語説明】

1.次世代シーケンサー:DNA などの塩基配列を読み取る装置をシーケンサーといいます。「次世代シーケンサー」は従来の「第 1 世代シーケンサー」と対比させて使われる用語です。次世代シーケンサーでは従来のものと比べて大量の塩基配列を低コストで迅速に解析することが可能です。
2.骨髄不全症:血液を作っている骨髄に様々な異常が生じることで正常に血液をつくることができず、白血球減少、貧血、血小板減少などの症状が起こる病気の総称です。
3.骨髄:骨の内部にあり、血液細胞のもとになる造血幹細胞が存在し、造血幹細胞が分化・成長することで血液が作られます。
4.遺伝性骨髄不全症:生まれ持った遺伝子の異常により、正常に血液をつくることができない病気の総称です。骨髄不全に伴う症状以外に、身体の奇形や特徴的な症状を示すことがありますが、それらが目立たない遺伝性骨髄不全症の患者もいます。
5.再生不良性貧血:骨髄不全症の中で最も多い病気で、主に自己免疫的な異常により、正常な造血が障害され白血球減少、貧血、血小板減少がみられます。再生不良性貧血と前述の遺伝性骨髄不全症は治療方針が異なるため診断時に両者をきちんと区別する必要があります。
6.テロメア:染色体の末端にあり、遺伝子を保護する役目を持っています。細胞分裂の繰り返しにより徐々に短くなっていくことが知られています。
7.遺伝性角化不全症:爪の萎縮,口腔内白斑,皮膚色素沈着を特徴的な 3 症状とする病気で、テロメアに関連する遺伝子異常によっておこる遺伝性骨髄不全症候群の一つです。

 

【論文情報】

掲雑誌名:Haematologica
論文タイトル:Clinical diagnostic value of telomere length measurement in inherited bone marrow failure syndromes
著者:Shunsuke Miwata1, Atsushi Narita1, Yusuke Okuno1,2, Kyogo Suzuki1, Motoharu Hamada1, Taro Yoshida1, Masayuki Imaya1, Ayako Yamamori1, Manabu Wakamatsu1, Kotaro Narita1, Hironobu Kitazawa1, Daisuke Ichikawa1, Rieko Taniguchi1, Nozomu Kawashima1, Eri Nishikawa1, Nobuhiro Nishio1,2, Seiji Kojima1, Hideki Muramatsu*1, Yoshiyuki Takahashi*1
所属:1Department of Pediatrics, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan.
Center for Advanced Medicine and Clinical Research, Nagoya University Hospital, Nagoya, Japan.

*Corresponding authors
DOI:https://doi.org/10.3324/haematol.2021.278334
English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Haem_210422en.pdf

 

研究代表者

医学系研究科 三輪田 俊介 大学院生

https://www.med.nagoya-u.ac.jp/ped/