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医歯薬学

2021.10.20

胆管癌の発生を抑制するタンパク質を発見 ~胆管癌治療への応用に期待~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院医学系研究科(研究科長:門松 健治)腫瘍外科学の江畑 智希(えばた ともき)教授、山口 淳平(やまぐち じゅんぺい)病院講師、長谷部 圭史(はせべ けいじ)大学院生らの研究グループは、胃粘膜で産生されるタンパク質であるTFF2が胆管癌の発生を抑制する作用があることを明らかにしました。
胆管癌は肝臓に発生する悪性腫瘍で2番目に多く、年間癌関連死の約3%を占めている難治性の癌です。原発性硬化性胆管炎や肝硬変、膵胆管合流異常症などが胆管癌の原因となることが知られていますが、胆管癌の発生メカニズムには様々な説があり、詳細は未だ明らかではありません。研究グループは胃粘膜で産生されるタンパク質の一種であるTFF2 (Trefoil Factor Family 2)※1 に着目し、胆管癌発生との因果関係を研究してきました。その結果、TFF2 には胆管癌細胞の増殖・浸潤を抑制する作用があり、これは癌抑制因子であるPTEN(ピーテン)※2 を活性化する事によって得られるものだという事が明らかとなりました。さらに、TFF2を産生できないTFF2欠損マウスの胆管は BilIN (ビル・イン)と呼ばれる胆管癌が発生しやすい状態となり、実際に胆管癌が発生するものもありました。これらの結果はTFF2が胆管癌発生を抑制する作用があることを示しており、今後TFF2を用いた新たな胆管癌治療の開発が期待されます。
本研究は日本学術振興会の科学研究費助成事業(基盤研究B)の支援を受けて実施されました。
本研究成果は2021年10月13日に英国科学雑誌「Carcinogenesis」にオンライン速報版で掲載されました。


【ポイント】

○胆管癌は予後の悪い悪性腫瘍ですが、その発生メカニズムには未知の部分が多く残っています。
○今回の研究で、胃粘膜から産生されるタンパク質の一種であるTFF2には胆管癌の発生を抑制する作用があることが明らかになりました。
○今後、TFF2を用いた新たな胆管癌治療の開発が期待されます。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

*1 TFF2
TFF は、主に消化管の粘膜に発現する細胞外分泌型タンパク質です。TFF1, TFF2, TFF3の3つのサブタイプがあり、胃潰瘍や炎症性腸疾患などで傷ついた粘膜を修復する作用があるとされていますが、最近では癌の発生を抑制する作用があることが示唆されています。
*2 PTEN
脱リン酸化反応を促進する酵素の一種で、癌抑制遺伝子として働きます。

 

【論文情報】

掲雑誌名:Carcinogenesis
論文タイトル:Trefoil factor family 2 inhibits cholangiocarcinogenesis by regulating the PTEN pathway in mice.
著者:Keiji Hasebe,Junpei Yamaguchi,Toshio Kokuryo ,Yukihiro Yokoyama,Yosuke Ochiai Masato Nagino,Tomoki Ebata
所属:Division of Surgical Oncology, Department of Surgery, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
DOI:10.1093/carcin/bgab093

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Carcin_211013en.pdf

 

【研究代表者】

医学部附属病院 山口 淳平 病院講師
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/tumor/index.html