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医歯薬学

2021.10.01

難治性腫瘍のデスモイドにおいて、腹壁発生に対してはR1手術で良好な成績が得られる

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学医学部附属病院のリハビリテーション科 西田 佳弘(にしだ よしひろ)病院教授、整形外科 酒井 智久(さかい ともひさ)助教らの研究グループは、難治性中間型腫瘍であるデスモイド※1 について、腹壁発生に限っては手術治療を選択することが許容され、かつ R1※2 手術(切除断端に顕微鏡で腫瘍が陽性)でも良好な成績が得られることを世界で初めて報告しました。
デスモイドは(筋)線維芽細胞様細胞の増殖性腫瘍であり、遠隔転移はしませんが、局所浸潤性が強く、部位によっては関節機能障害、麻痺、痛みなどで患者さんは苦しむことになります。手術による再発率が極めて高いため、近年、手術治療は選択されなくなっています。しかし、腹壁発生に限っては広範な切除により(R0※2 手術)、術後成績が良好であることが報告されていました。本研究では、R1 手術でも術後成績がR0 手術と同様に良好であることを初めて発見しました。15 人の腹壁発生デスモイド患者全員に対してR1 手術を実施したところ、同手術を実施することで腹壁の筋膜を温存することができ、大きな再建手術が不要となりました。また、術後再発は1 例(6.7%)のみと極めて良好な成績を収めました。

腫瘍に対する外科手術の標準的概念は、R0 手術の術後再発率はR1 手術と比較して低く抑えられるというものです。しかし、腹壁発生デスモイドでは R1 手術で R0 と同等の成績が得られることが示唆され、腫瘍手術の概念を大きく変える可能性があります。症例数を増やして解析することが必要となりますが、低侵襲手術で再発率が抑えられることから、患者さんに対するメリットは大きいと考えられます。
本研究成果は、国際科学誌「Scientific Reports」(英国時間2021 年9 月29 日付けの電子版)に掲載されました。

 

【ポイント】

○デスモイド腫瘍に対する手術治療は腹壁発生では許容される
○腹壁発生デスモイドに対してはR1 手術でも良好な成績が得られる
○腹壁発生デスモイドに対するR1 手術は、低侵襲であるため再建手術の必要性が少ない

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

※1 デスモイド:身体を支える組織である結合組織の中でも筋や筋膜から発生するとされている腫瘍で、線維芽細胞(細長い細胞)様細胞が増殖します。肺や骨などに遠隔転移はしませんが、発生した部位から周囲に浸潤する能力が非常に高い腫瘍です。

※2 R0、R1 手術:腫瘍を切除する場合、取り切れたという場合には切除した組織の断端に顕微鏡で調べても腫瘍が露出していません。これをR0 手術と呼びます。一方、顕微鏡で腫瘍が露出している場合はR1 手術、目で見ても腫瘍が露出している場合はR2 手術と呼びます。

 

【論文情報】

掲雑誌名:Scientific Reports
論文タイトル:Less-invasive fascia-preserving surgery for abdominal wall desmoid
著者:Yoshihiro Nishida1, 3, Shunsuke Hamada2, Tomohisa Sakai3, Kan Ito3, Kunihiro Ikuta3, Hiroshi Urakawa3, Hiroshi Koike3, Shiro Imagama3
所属:1Department of Rehabilitation, Nagoya University Hospital
2Department of Orthopaedic Surgery, Aichi Cancer Center Hospital
3Department of Orthopaedic Surgery, Nagoya University Hospital
DOI:https://doi.org/10.1038/s41598-021-98775-2

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Sci_Rep_210929en.pdf

 

【研究代表者】

医学部附属病院 西田 佳弘 病院教授

http://meidai-rehabilitation.jp/