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医歯薬学

2021.11.25

腸内細菌Collinsella属がCOVID-19の感染・重症化を予防

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院医学系研究科(研究科長・門松健治)・オミックス医療科学准教授・平山正昭、神経遺伝情報学教授・大野欽司、助教西脇寛らの研究グループは、腸内細菌Collinsella 属がCOVID-19 の感染と重症化を予防する可能性があることを発見しました。
2020 年初頭から世界中で猛威を振るっているSARS-CoV-2 によるCOVID-19 感染症において、欧米では感染者数や死亡率が高く、反対にアジアでは感染者数や死亡率が低い傾向にあります。この違いを決めるファクターX の候補として、遺伝子配列の違い・BCG ワクチン接種率・過去の類似ウイルスに対する暴露歴・生活習慣の違いなどが挙げられてきました。今回、ファクターX の候補として腸内細菌叢に着目しCOVID-19 死亡率との関連を解析しました。公共データベースからOECD 10 カ国の953 人の健常者の腸内細菌叢データをダウンロードして解析に用いました。腸内細菌叢を用いて各国の COVID-19 死亡率を予測する機械学習モデルgeneralized linear model※1 (GLM)を作成しました。GLM 解析の結果、腸内細菌Collinsella 属の比率が低いほどCOVID-19 の死亡率が高いことがわかりました。また、953 人のデータを使った教師なしクラスター解析※2 を行ったところ 5 つの腸内細菌叢の型(エンテロタイプ※3)が見つかりました。COVID-19 死亡率はエンテロタイプ 1 から 5 に移行するにしたがって増えました。一方、ollinsella 属はエンテロタイプ1から5に移行するにしたがって減少しました。Collinsella 属は肝臓で作られて腸内に放出される一次胆汁酸を二次胆汁酸ウルソデオキシコール酸に変換することが知られています。ウルソデオキシコール酸は SARS-CoV-2 のアンジオテンシン変換酵素 2 (ACE2)への結合を防ぐことが最近報告されています。ACE2 は SARS-CoV-2 感染時に最初に結合する受容体です。加えて、ウルソデオキシコール酸は炎症誘発性サイトカインの産生を抑制し、抗酸化・抗アポトーシス作用を有し、急性呼吸症窮迫候群 (ARDS)で肺胞液クリアランスを上昇させることが知られています。以上の結果から腸管内の Collinsella 属が産生するウルソデオキシコール酸は SARS-CoV-2 感染を防ぎ、COVID-19 による呼吸困難を改善する可能性が示唆されました。
本研究成果は、科学雑誌「PLOS ONE」に掲載されました(オンライン公開日11/24 4:00 JST)。

 

【ポイント】

〇 10 カ国953 人の健常者の腸内細菌データを用いて各国のCOVID-19 死亡率を予測する機械学習モデルを作成したところ、腸内細菌Collinsella 属の比率が低いほどCOVID-19 の死亡率が高くなることがわかりました。
〇 先行研究からCollinsella 属は二次胆汁酸ウルソデオキシコール酸を腸内で産生することが知られています。
〇 ウルソデオキシコール酸は、SARS-CoV-2 が感染時に最初に結合する受容体アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)との結合することを防ぐことが知られています。
〇 加えて、ウルソデオキシコール酸は、炎症誘発性サイトカインを抑制し、抗酸化・抗アポトーシス作用を持ち、急性呼吸症候群 (ARDS) で肺胞液クリアランスを上昇させることも知られています。
〇 腸管内のCollinsella 属が産生するウルソデオキシコール酸は、COVID-19 感染を予防し、COVID-19 による呼吸困難を改善する可能性が示唆されました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

※1 Generalize linear model
線形モデルによる機械学習手法のひとつで残差の分布を任意のものにすることができます。似た解析手法であるgeneral linear model(一般線形モデル)は残差の分布が正規分布のものを指します。GLM には線形回帰、ポアソン回帰、ロジスティック回帰などが含まれます。
※2 クラスター解析
異なる性質をもつ集団から似た性質をもつ集団だけを集めて、新しい複数のクラスター(集団)を作る方法です。
※3 エンテロタイプ
腸内細菌叢の型。腸内細菌叢は共生関係にあり、特定の腸内細菌群が多いタイプがひとつのエンテロタイプを形成します。性別や人種とはあまり関係がなく、摂取する食物に影響されると考えられています。

 

【論文情報】

掲雑誌名:PLOS ONE
論文タイトル:Intestinal Collinsella may mitigate infection and exacerbation of COVID-19 by producing ursodeoxycholate

 

著者:Masaaki Hirayama1, ¶,*, Hiroshi Nishiwaki2, ¶, Tomonari Hamaguchi2, Mikako Ito2, Jun Ueyama1, Tetsuya Maeda3, Kenichi Kashihara4, Yoshio Tsuboi5, and Kinji Ohno2*

 

所属:1Department of Pathophysiological Laboratory Sciences, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan, 2Division of Neurogenetics, Center for Neurological Diseases and Cancer, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan, 3Division of Neurology and Gerontology, Department of Internal Medicine, School of Medicine, Iwate Medical University, Iwate, Japan, 4Department of Neurology, Okayama Kyokuto Hospital, Okayama, Japan, 5Department of Neurology, Fukuoka University, Fukuoka, Japan, These authors contributed equally to this work. *Corresponding author

 

DOI:https://doi.org/10.1371/journal.pone.0260451

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/PLOS_ONE_20211124en.pdf

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科総合保健学専攻 平山 正昭 准教授
http://square.umin.ac.jp/hirayamalab/hirayamalab/Welcome.html