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医歯薬学

2021.11.05

高侵襲手術の術後経過の実態を可視化 ~より安全な術後管理法の確立に期待~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院医学系研究科腫瘍外科学の江畑 智希(えばた ともき)教授と川勝 章司(かわかつ しょうじ)大学院生らの研究グループは、肝門部領域胆管癌※1 の術後に生じる全ての合併症を調査して、全合併症の累積過程を可視化しました。また合併症の累積過程は重症度別に 3 つに分類することができることを、集団軌跡モデルによって明らかにしました。
肝門部領域胆管癌は肝門部の胆管に主座を持つ難治性の悪性腫瘍であり、手術が唯一根治を期待できる治療法です。しかし非常に侵襲の大きい手術が必要であるため、重症合併症が高頻度に生じ、手術に関連する死亡率が高いことが世界的な問題となっています。これまで術後に生じる様々な合併症がどのようにして蓄積されて重症化していくのかは明らかではありませんでした。研究グループは、経過中に起きた全ての合併症を包括的に評価する指標である CCI(Comprehensive complication index)※2 を用いて術後経過を合併症の観点から定量化しました。またその時間経過での推移をグラフ化することで術後経過の全貌を可視化することを試みました。その結果、肝門部領域胆管癌では、術直後から様々な合併症が起こり、術後1 週間前後で多くの合併症が重なり、その後の累積は比較的穏やかであることが示されました。また術後経過は重症度別に3 つに分類することができ、重症化する患者さんを術後早期の段階で予測可能であることが明らかになりました。本研究の結果により、これまで明らかではなかった肝門部領域胆管癌の術後経過の全貌が捉えられ、視覚的に理解することが可能となりました。今後、この結果がより安全な術後管理法の確立に大きく寄与することが期待されます。
本研究成果は2021 年8 月13 日に米国科学雑誌「Annals of Surgery」のオンライン速報版に掲載されました。

 

【ポイント】

○肝門部領域胆管癌は手術が唯一根治を期待できる治療法ですが、重症合併症が高頻度に生じます。
○今回の研究で、肝門部領域胆管癌の術後合併症が時間経過でのどのように累積していくのかが視覚化され、その累積の仕方が重症度別に3 つに分類可能なことが明らかになりました。
○重症化する患者さんを術後早期の段階で予測可能であるため、重症化を防ぐための対策を練る重要な判断材料となります。
○今後、より安全な術後管理法の確立に貢献することが期待されます。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

※1 肝門部領域胆管癌
肝門部の胆管に主座を持つ難治性の悪性腫瘍です。手術以外に有効な治療法が乏しく、手術が唯一根治を期待できる治療法となります。
※2 CCI (Comprehensive complication index)
Cavien-Dindo Classification に基づいて経過中に生じた全ての合併症を包括的に評価します。0から100 までの連続変数で評価されます。

 

【論文情報】

掲雑誌名:Annals of Surgery
論文タイトル:Early prediction of serious postoperative course in perihilar cholangiocarcinoma: trajectory analysis of the comprehensive complication index
著者:Shoji Kawakatsu1, Junpei Yamaguchi1, Takashi Mizuno1, Nobuyuki Watanabe1, Shunsuke Onoe1, Tsuyoshi Igami1, Yukihiro Yokoyama1, Kay Uehara1, Masato Nagino1, 2, Keitaro Matsuo3, 4, Tomoki Ebata1
所属:
1. Division of Surgical Oncology, Department of Surgery, Nagoya University Graduate School of Medicine
2. Department of Gastroenterological Surgery, Aichi Cancer Center Hospital
3. Division of Cancer Epidemiology and Prevention, Aichi Cancer Center Research Institute
4. Division of Cancer Epidemiology, Nagoya University Graduate School of Medicine
DOI:10.1097/SLA.0000000000005162

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Ann_Sur_210813en.pdf

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 川勝 章司 大学院生
http://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_J/laboratory/clinical-med/surgery/oncology/