国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院医学系研究科(研究科長・門松健治)細胞生物学の服部 祐季(はっとりゆき)特任助教、宮田 卓樹(みやたたかき)教授の研究グループは、胎生期の大脳において、血管の周囲に存在する細胞であるペリサイトがミクログリアの恒常性の維持に重要な役割を担っていることを明らかにしました。
ミクログリアは脳内に存在する免疫細胞で、神経系の細胞の分化や数の調節、あるいは血管形成を助けるなど多様な機能を持ち、脳発生において重要な役割を果たします。一方、ペリサイトは、脳の血管の外側を覆う細胞です。生後や成体の脳での解析によって、ペリサイトの機能は、血液と脳との間の物質のやり取りを制御する血液脳関門のバリア機能を保つこと、血管構造の安定化、血流調節などが知られています。
今回研究グループは、胎生期の脳において、ペリサイトがミクログリアの生存維持や増殖を助けるという機能を持つことを新たに発見しました。胎生期の脳では、ペリサイトは脳血管を部分的に被覆しています。この時期にはミクログリアの約半数程度が血管に接触していることがわかっていましたが、研究グループは、ミクログリアがペリサイトに被覆される血管領域に選択的に接触していることを見出しました。脳内のペリサイトを除去するマウスモデルを構築し、ペリサイト除去による影響を調べた結果、ミクログリアの数が減少し、ミクログリアによる未熟な神経系細胞の分化を促進する機能がうまく行われず脳発生に影響が現れることを見出しました。そこで、組織から単離したペリサイトとミクログリアの共培養を行ったところ、ペリサイトが分泌性因子を関してミクログリアの生存維持や増殖を直接的にサポートしていることが明らかとなりました。
ペリサイトには既に報告されているような血液構造の保持や血流調節の他にも、ミクログリアの数や増殖能を恒常的に保つという機能があることが新たに明らかとなりました。脳発生メカニズムの解明にあたっては、神経系細胞だけでなく、ミクログリア、ペリサイト、血管内皮細胞といった種々の細胞の連携・相互作用を知ることが重要です。本研究成果は、脳発生原理の包括的な理解に貢献するとともに、病態時の現象の理解にも役立つと期待されます。
本研究は名古屋市立大学大学院医学研究科の植村明嘉教授の協力を得て行われました。
本研究成果は、2021 年11 月24 日に、米国科学誌「The Journal of Neuroscience」に掲載されました。
● マウス胎仔の側脳室内にペリサイトに対する機能阻害抗体を投与することにより、ペリサイトを特異的に除去することに成功しました。
● ペリサイト除去によってミクログリアが減少し、神経系の細胞の分化や成熟に影響が生じることが示されました。
● ペリサイトには、血管構造の安定化や血流の調節だけでなく、ミクログリアの生存維持・増殖に寄与する機能があることが新たに分かりました。
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掲載誌:The Journal of Neuroscience
論文名:Embryonic pericytes promote microglial homeostasis and their effects on neural progenitors in the developing cerebral cortex
著者:Yuki Hattori1, Haruka Itoh1, Yoji Tsugawa2, Yusuke Nishida1, Kaori Kurata3, Akiyoshi Uemura3, Takaki Miyata1
所属:
1 Department of Anatomy and Cell Biology, Graduate School of Medicine, Nagoya University
2 Department of Biologics 1 group, Laboratory for Advanced Medicine Research, Shionogi & Co., Ltd.
3 Department of Retinal Vascular Biology, Graduate School of Medical Sciences, Nagoya City University
DOI:https://doi.org/10.1523/JNEUROSCI.1201-21.2021