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医歯薬学

2022.03.14

進行膵癌に対する術前化学療法の効果を実証 ~臨床試験により安全性と治療効果を確認~

名古屋大学大学院医学系研究科腫瘍外科学の江畑智希教授と同大医学部附属病院消化器外科一の山口淳平病院講師らの研究グループは、進行膵癌に対する術前化学療法(手術前の抗癌剤治療)の安全性と有効性を確認しました。
膵癌は膵臓に発生する悪性腫瘍であり、手術による切除が唯一の根治的治療法です。しかしながら切除後の 5 年生存率は全体で 3 割程度であり満足のできる結果とは言えず、また進行した膵癌では切除できないことも多々あるため、進行膵癌に対する新たな治療戦略が必要とされてきました。最近では膵癌の手術前および手術後に抗癌剤を投与する「補助化学療法」の効果が明らかとなり、標準的な治療法となりつつあります。一方、近年では複数の抗癌剤を同時投与する「多剤併用化学療法」が進歩して、手術できない膵癌患者には標準的に用いられますが、これを手術前に投与する意義は明らかではありませんでした。というのも、多剤併用化学療法は多くの副作用が発生するため、手術前に投与する事で手術の安全性を脅かす危険があり、手術前にさらに癌が進行して切除できなくなる可能性もあり、また手術による治療効果がどの程度高まるのかもわかっていませんでした。そこで今回の臨床試験は、進行膵癌に対して多剤併用化学療法を行った後に手術を行い、その安全性と治療効果を確認するために実施したものです。その結果、この治療法が安全に行える事が確認され、7 割弱の患者で膵癌が完全切除され、また手術後の 3 年生存率は 55%という高い治療効果を示すことも明らかとなりました。今後、進行膵癌に対してはこの治療法が標準治療となる事が予想されます。

 

研究成果は 2022 年 3 月 9 日に米国学術雑誌「Annals of Surgery」にオンライン速報版で掲載されました。

 

【ポイント】

○ 膵癌を根治できる治療法は手術しかありませんが、手術後の 5 年生存率は 3 割程度であり満足のいく結果とは言えません。これを改善するために、手術前や手術後に抗癌剤を使用する治療法が広がりつつあります。
○ 近年では複数の抗癌剤を投与する「多剤併用化学療法」が進歩しています。しかしながら、特に進行膵癌に対して、手術前にこれを投与する効果は明らかではありませんでした。
○ 今回の臨床試験で、2 種類の多剤併用化学療法の術前投与の安全性と効果が確認されました。今後はこの治療法が進行膵癌に対する標準治療となると考えられます。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【論文情報】

掲雑誌名:Annals of Surgery
論 文 タ イ ト ル : Results of a phase II study on the use of neoadjuvant chemotherapy (FOLFIRINOX or gemcitabine with nab-paclitaxel) for borderline-resectable pancreatic cancer (NUPAT-01).
著者:Junpei Yamaguchi (1) , Yukihiro Yokoyama (1) , Tsutomu Fujii, (6) , Suguru Yamada (2) , Hideki Takami (2) , Hiroki Kawashima (3) , Eizaburo Ohno(3) , Takuya Ishikawa (3) , Osamu Maeda(4) , Hiroshi Ogawa (5) , Yasuhiro Kodera (2) , Masato Nagino (1) , and Tomoki Ebata (1)
所属:
Surgical Oncology (1) , Gastroenterological Surgery(2) , Gastroenterology(3) , Clinical Oncology and Chemotherapy(4) , and Radiology(5) , Nagoya University Graduate School of Medicine DOI:10.1097/SLA.0000000000005430

 

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Ann_220310en.pdf

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 江畑 智希 教授

https://www.med.nagoya-u.ac.jp/tumor/index.html