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環境学

2022.05.02

東アジア大陸から輸送される大気微粒子の吸湿性 ~化学組成との関係を明らかに・ラボ分析に基づく実験手法の有用性も提示~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学宇宙地球環境研究所のデン ヤンガ 研究員(研究当時)、持田 陸宏 教授、同大学大学院環境学研究科の藤成 広明 博士前期課程学生(研究当時)らの研究グループは、東京農工大学・北海道大学・中部大学・中山大学(中国)・中国気象局・東京大学・国立極地研究所・国立環境研究所との共同研究で、アジア大陸から空気塊が運ばれる沖縄の大気エアロゾル注1)の吸湿性注2)や、その化学組成との関係を明らかにしました。また、大気エアロゾル試料を実験室で調べる「オフライン分析」が、吸湿性の解析に有用であることを提示しました。
大気エアロゾルが水蒸気を取り込む能力(吸湿性)は、雲粒ができる際の核としての働きを決めるため、エアロゾルの気候影響を把握する上で鍵となる性質です。本研究では、東アジア大陸から輸送される沖縄のエアロゾルを対象に、水溶性成分の吸湿性の程度や、吸湿性に対する無機・有機物の寄与を明らかにした上で、その変動に関わる組成の特徴を示しました。また、大気エアロゾル試料を実験室で解析する「オフライン分析」で得た結果を、その場観測の結果と比較し、「オフライン分析法」が、大気エアロゾルの吸湿性の研究に有用であることを裏付けました。本研究の成果は、エアロゾルの気候影響の理解に寄与し、また、そのための研究の技術的な発展に結びつくと期待されます。
本研究成果は、2022年5月2日午前8時(日本時間)付国際学術雑誌「Atmospheric Chemistry and Physics」に掲載されました。
本研究は、科学研究費補助金基盤研究(B)「大気有機エアロゾルの吸湿性に対する定量的理解の深化―化学構造・起源との関係―」、環境再生保全機構環境研究総合推進費「地球温暖化に関わる北極エアロゾルの動態解明と放射影響評価」等の支援のもとで行われたものです。

 

【ポイント】

・東アジア大陸から空気が輸送される沖縄で、大気エアロゾルの採取を行い、その成分分析により、硫酸塩に富み、酸素含有率の高い変質の進んだ有機物を含むなどの特徴を捉えた。
・大気エアロゾル試料の抽出物を再微粒子化する技術を用い、粒子が相対湿度に応じて水蒸気を取り込んで成長する程度を測定して、無機物・有機物の吸湿性への寄与を見積もった。そして、大気エアロゾルの吸湿性の変動と化学組成の関係を示した。
・エアロゾルを採取して実験室で分析する「オフライン分析」で得た吸湿性・化学組成の測定結果と、観測地点で測定された結果が類似していることを確かめ、オフラインの手法が、大気エアロゾルの吸湿性の研究に有用であることを指摘した。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)大気エアロゾル:
大気に浮遊する、数ナノメートルから100マイクロメートル程度までの大きさを持つ微粒子(1ナノメートル、1マイクロメートルは、それぞれ1メートルの10億分の1と100万分の1)。人の健康に悪影響を及ぼす大気汚染物質として知られるほか、雲粒ができる際の核として作用などによって気候に関与することから、気候変動における役割が注目されている。

 

注2)吸湿性:
大気エアロゾルは水蒸気を取り込んで大きくなる性質を持ち、その程度はエアロゾルを形作る物質の種類によって大きく異なる。エアロゾルの吸湿性は、気候影響を調べるモデル研究で扱う必要がある一方で、何千種類以上の物質からなるエアロゾルに対して、いつ、どこでどのような吸湿性を持っているのかを正確に予測することは難しく、課題として残されている。

 

【論文情報】

雑誌名:Atmospheric Chemistry and Physics
論文タイトル:Offline analysis of the chemical composition and hygroscopicity of sub-micrometer aerosol at an Asian outflow receptor site and comparison with online measurements
著者:Yange Deng1,2,a, Hiroaki Fujinari1, Hikari Yai1, Kojiro Shimada3,b, Yuzo Miyazaki4, Eri Tachibana4, Dhananjay K. Deshmukh5, Kimitaka Kawamura5, Tomoki Nakayama2,c, Shiori Tatsuta3, Mingfu Cai6,d, Hanbing Xu6, Fei Li7,e, Haobo Tan7, Sho Ohata8,f,g, Yutaka Kondo9, Akinori Takami10, Shiro Hatakeyama3,h, Michihiro Mochida1,2
1名古屋大学宇宙地球環境研究所,2名古屋大学大学院環境学研究科,3東京農工大学,4北海道大学,5中部大学,6中山大学(中国),7中国気象局,8東京大学,9国立極地研究所,10国立環境研究所(現在の所属:a国立環境研究所,b琉球大学,c長崎大学,d曁南大学(中国),e廈門気象局(中国),f名古屋大学宇宙地球環境研究所,g名古屋大学高等研究院,h日本環境衛生センター) 
DOI:10.5194/acp-22-5515-2022
URL:https://acp.copernicus.org/articles/22/5515/2022/

 

【研究代表者】

宇宙地球環境研究所 持田 陸宏 教授
http://acg.isee.nagoya-u.ac.jp/