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化学

2022.05.20

炭素でできたメビウスの輪を合成 ~カーボンナノベルトにひねりが加わり裏表のない分子に~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM※1)の伊丹 健一郎 教授は、自然科学研究機構分子科学研究所の瀬川 泰知 准教授らとの共同研究により、炭素のメビウスの輪「メビウスカーボンナノベルト」の世界初の合成に成功しました。
ナノメートルサイズの繰り返し構造をもつ炭素物質「ナノカーボン」を、原子レベルで精密に合成する方法が材料科学において求められています。その重要な一歩として、有機合成化学の手法を用いて、ナノカーボンの部分構造となる分子を合成する「分子ナノカーボン科学」が近年盛んに研究されています。しかし、これまでに合成された分子ナノカーボンは、リング状やベルト状といった幾何学的に単純な構造でした。理論化学的に予測されている複雑な幾何学構造をもつ未踏のナノカーボンを合成するには、より複雑で幾何学的な特徴をもった分子ナノカーボンを合成する新しい手法の開発が必要です。
本研究は、メビウスの輪の形状をもつ分子ナノカーボン「メビウスカーボンナノベルト」を合成することに成功しました。ベルト状の分子ナノカーボン「カーボンナノベルト」に、更にひねりが加わった構造に由来する大きなひずみを定量的に解析し、合理的な戦略に基づいて有機合成化学的に合成を行いました。合成したメビウスカーボンナノベルトを分析することにより、メビウスの輪がもつトポロジー注1)に由来する特異な動的挙動や光学特性をもつことが明らかになりました。
本研究は、複雑な幾何学構造をもつ新たなナノカーボン材料の開発に道をひらく画期的な成果です。
本研究成果は、2022年5月20日午前0時(日本時間)付にイギリス科学誌「Nature Synthesis」のオンライン速報版に掲載されました。

 

【ポイント】

・「カーボンナノベルト」に、更にひねりが加わった最難関分子を合成。
・スーパーコンピュータを用いて「ひずみ」を解析し合成可能な分子サイズを特定。
・表と裏の区別がないことや、右ひねりと左ひねりの鏡像関係が生まれるなど、メビウスの輪がもつ幾何学的特徴を実験的に実証。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)トポロジー(位相幾何学):
リング(穴)、結び目、絡み目など、連続的に変形しても変わらない要素の種類や数に注目して形を分類する幾何学。

 

【論文情報】

雑誌名:イギリス科学誌「Nature Synthesis」
論文タイトル:“Synthesis of a Möbius carbon nanobelt”(メビウスカーボンナノベルトの合成)
著者:瀬川 泰知渡辺 二規山野上 琴乃桑山 元伸渡邊 幸佑、ピリッロ ジェニー、土方 優、伊丹 健一郎は責任著者)
DOI: 10.1038/s44160-022-00075-8
URL: https://www.nature.com/articles/s44160-022-00075-8

 

※1【WPI-ITbMについて】(http://www.itbm.nagoya-u.ac.jp)
名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)は、2012年に文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の1つとして採択されました。名古屋大学の強みであった合成化学、動植物科学、理論科学を融合させ、新たな学問領域であるストライガ、植物ケミカルバイオロジー研究、化学時間生物学(ケミカルクロノバイオロジー)研究、化学駆動型ライブイメージング研究などのフラッグシップ研究を進めています。ITbMでは、精緻にデザインされた機能をもつ分子(化合物)を用いて、これまで明らかにされていなかった生命機能の解明を目指すと共に、化学者と生物学者が隣り合わせになって融合研究を行う「ミックス・ラボ、ミックス・オフィス」で化学と生物学の融合領域研究を展開しています。「ミックス」をキーワードに、人々の思考、生活、行動を劇的に変えるトランスフォーマティブ分子の発見と開発を行い、社会が直面する環境問題、食料問題、医療技術の発展といったさまざまな課題に取り組んでいます。
 

【研究代表者】

トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)/大学院理学研究科 伊丹 健一郎 教授
http://synth.chem.nagoya-u.ac.jp