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数物系科学

2022.06.01

2.5億年前、シベリア大陸縁で沈み込んだ海洋プレートは、なぜ熔けたのか?

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学博物館の束田 和弘 准教授の研究グループは、モンゴル科学技術大学、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構との共同研究で、2億5000万年前のシベリア大陸の下に、海洋プレートが沈み込んでいた証拠を発見しました。シベリア大陸への海洋プレートの沈み込みは、「ユーラシア大陸がどのように形成されたのか?」を考える上でとても重要です。
モンゴル北部からシベリア南部にかけての数千kmにわたり、広大な火成岩注1)地帯が広がっていますが、「なぜ、このような巨大な火成岩地帯ができたのか」は不明でした。
本研究では、モンゴル北部で詳細な地質調査を行い、岩石の化学組成分析と年代測定を行った結果、この火成岩地帯の初源マグマ注2)が、約2億5000万年前に、シベリア大陸の下に沈み込んだ海洋プレートが熔融してできた(つまり、シベリアの下に沈み込んだ海洋プレートが存在した)ことが明らかになりました。
ちょうど同じ頃に、シベリア大陸では「シベリアトラップ注3)」のスーパープルーム注4)活動が起こっていました。海洋プレートを熔融させた熱源は、もしかしたらこのスーパープルームなのかもしれません。
本研究成果は、2022年5月13日付オランダElsevier社の科学誌「Journal of Geodynamics」にてオンライン公開されました。
 本研究の一部は、経済産業省「平成25年度 希少金属資源開発推進基盤整備事業 ホ?テンシャル評価調査(モンゴル国)」と、公益財団法人大幸財団「平成30年度 第28回自然科学系学術研究助成」の支援のもとで行われたものです。

 

【ポイント】

 

・モンゴル北部からシベリア南部にかけて、巨大な火成岩地帯が存在するが、その成因は不明な点が多かった。
・モンゴル北部の火成岩地帯の化学組成は、そのマグマが、海洋プレートが溶融してできたことを示す。このことは、シベリア大陸の下に海洋プレートが沈み込んでいたことを証拠づける。
・モンゴル北部の火成岩地帯を年代測定したところ、この岩石が約2億5000万年前に形成されたことが明らかになった。
・海洋プレートが溶融するためには、高温条件が必要である。約2億5000万年前には、シベリア大陸で「シベリアトラップ」のスーパープルーム活動が起こっていた。海洋プレートを熔融させた熱源は、このスーパープルームかもしれない。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)火成岩:
 マグマ活動によって形成された岩石の総称。マグマが地上に噴出してできた「火山岩」や、マグマが地下で固結してできた「深成岩」などがある。

 

注2)初源マグマ:
 地表で噴出、あるいは地下浅所で固結したマグマは、それ以前に地下のいろいろな場所での反応を経験している。それらの反応を受ける前の最初のマグマを初源マグマという。

 

注3)シベリアトラップ:
 シベリア大陸で、約2億5000万年前ごろに起こった超大規模な火成活動のこと。この火成活動の影響で、当時の生物の8割以上が絶滅したと推定されている。

 

注4)スーパープルーム:
 地球のコアから地殻に向かう、巨大な熱上昇流。大規模なスーパープルームが地表に達すると、激烈な火成活動が起こると考えられている。

 

【論文情報】

雑誌名:Journal of Geodynamics
論文タイトル:Permian-Triassic Adakitic Igneous Activity at Northern Mongolia: Implication for Permian-Triassic Subduction System at the Siberian Continental Margin
著者:梅田貫太(本学卒業生)1, Nemekhbayar Purevsuren(本学卒業生)2, 束田和弘3*, Lodoidanzan Altansukh(本学研修生)4, Bayart Nadmid(博士課程在学中)1, Khishigsuren Sodnom5, Manchuk Nuramkhaan(本学卒業生)6, 椛島太郎7, 近藤智之(本学卒業生)7 ※本学関係者は下線
1 名古屋大学大学院環境学研究科
2 モンゴル自然史博物館
3 名古屋大学博物館(環境学研究科兼担)
4 モンゴル科学技術大学フィールドリサーチセンター
5 モンゴル科学技術大学地質・鉱山学部
6 モンゴル科学技術大学エルデネット校
7 独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構
* 責任著者
DOI: 10.1016/j.jog.2022.101918 
URL: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0264370722000229?via%3Dihub

 

【研究代表者】

名古屋大学博物館 束田 和弘 准教授