TOP   >   医歯薬学   >   記事詳細

医歯薬学

2022.07.14

遺伝性運動ニューロン病の鍵を握るタンパク質を発見 -球脊髄性筋萎縮症の病態に MID1 が関わることを解明-

名古屋大学大学院医学系研究科神経内科学の勝野 雅央 教授、佐橋 健太郎 講師、飯田 円 助教、蛭薙 智紀 医員、小椋 陽介 医学部生(筆頭研究者)らの研究グループは、文部科学省科学研究費補助金(MEXT)の支援を受け、名古屋大学大学院医学系研究科細胞生物学の宮田 卓樹 教授との共同研究により、運動ニューロン※1で特異的に発現する MID1※2が、異常なアンドロゲン受容体※3 の産生を増加させることによって軸索障害を生じうることを明らかにしました。
球脊髄性筋萎縮症は、脳幹や脊髄の運動ニューロンが障害される遺伝性疾患であり、患者数は日本国内で 2,000 人程度です。治療薬としてリュープロレリン酢酸塩が承認されていますが、その効果は十分ではありません。球脊髄性筋萎縮症の原因は、アンドロゲン受容体遺伝子の第一エクソンに存在する CAG リピート※4の異常延長であり、アンドロゲンに依存して病気がおこるため、通常は男性のみで発症します。CAG リピートはアミノ酸の一種であるグルタミンの繰り返し配列であるポリグルタミンへと翻訳され、異常に延長したポリグルタミンをもつアンドロゲン受容体タンパク質は、アンドロゲンの存在下で細胞に障害を与え、運動ニューロンを細胞死に至らせることが分かっています。しかし、様々な細胞の中で特に運動ニューロンが障害されやすい「脆弱性※5」のメカニズムは十分に理解されていませんでした。今回本研究グループは、網羅的な遺伝子発現解析を通じて、運動ニューロンで特異的に発現する MID1 が異常に延長したポリグルタミンを有するアンドロゲン受容体タンパク質の産生を促進することを見出しました。さらに、マウス脊髄の培養系での解析を通して、MID1がアンドロゲンの存在下で運動ニューロンの軸索障害を増悪させることを明らかにしました。
本研究は、球脊髄性筋萎縮症において、運動ニューロンで特異的に発現する MID1 が異常なアンドロゲン受容体の産生を増加させることによって軸索障害をもたらすという、運動ニューロンの脆弱性の鍵となるメカニズムを解明しました。研究成果は Nature Research の科学雑誌「Cell Death &Disease」(英国時間 2022 年 7 月 13 日電子版)に掲載されました。

 

【ポイント】

○球脊髄性筋萎縮症における運動ニューロンの脆弱性のメカニズムは未解明である。
○モデルマウスの脊髄において発現異常を示す遺伝子として MID1 を特定し、運動ニューロンで特異的に発現していることを明らかにした。
○MID1 が異常なアンドロゲン受容体タンパク質の産生を増加させることを明らかにした。
○マウス脊髄の培養系での解析を通して、MID1 がアンドロゲンの存在下で運動ニューロンの軸索障害を増悪させることを明らかにした。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

※1 運動ニューロン:
骨格筋を支配する神経細胞のことで、細胞体は主に脳幹・脊髄と大脳皮質の運動野に存在する。
※2 MID1:
Midline-1 の略である。対応するマウスのタンパク質は Mid1 と呼ばれるが、本文章では MID1で統一した。
※3 アンドロゲン受容体:
テストステロンなどの男性ホルモン(アンドロゲンと総称)の受容体であり、アンドロゲンと結合すると細胞質から核内へ移行して遺伝子の発現を調節する。
※4 CAG リピート:
シトシン(C)、アデニン(A)、グアニン(G)の三塩基の繰り返し配列である CAG リピートの数は、健常者では 36 以下であるが、SBMA では 38 以上に延長している。
※5 脆弱性:
パーキンソン病におけるドパミンニューロンやアルツハイマー病における海馬ニューロンなど、神経疾患において特定の神経細胞が弱りやすいことを指す。

 

【論文情報】

掲雑誌名:Cell Death & Disease
論文タイトル: Mid1 is associated with androgen-dependent axonal vulnerability of motor neurons in spinal and bulbar muscular atrophy
著者:Yosuke Ogura1, Kentaro Sahashi 1, Tomoki Hirunagi 1, Madoka Iida 1, Takaki Miyata 2 and Masahisa Katsuno 1,3
所属名:
1Department of Neurology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan.
2Department of Anatomy and Cell Biology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan.
3Department of Clinical Research Education, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan.
DOI:10.1038/s41419-022-05001-6

 

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Cel_220713en.pdf

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 勝野 雅央 教授
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/neurology/