名古屋大学大学院医学系研究科の環境労働衛生学教室の鄧雨奇大学院生・大神信孝准教授（共同責任著者）・加藤昌志教授（共同責任著者）等の研究グループにより、低周波騒音に含まれるヒトの皮膚血流を改善できる音成分（sound spice^®）が発見されました。
低周波騒音とは 100 ヘルツ（Hz）^※1 以下の周波数の音と定義されています。低周波騒音は、風力発電の風車・ヒートポンプ式給湯器・エアコン室外機・フリーザー・トラック等、多種多様な機器から検出されることが知られています。また近年、低周波騒音が健康障害を誘発する可能性が報告されています。一方、低周波騒音のどんな音成分が、体のどの部分に、どのように作用するのかについては、ほとんど分かっていませんでした。
本研究グループは、低周波騒音の中にヒトの四肢の皮膚血流を改善する音成分が含まれていることを明らかにしました。驚いたことに、この音成分の短時間刺激は、耳ではなく血管を直接刺激して血流を改善する可能性が、ヒトや動物（マウス）に対する研究を通して明らかになりました。また、動物を用いた研究では、この音成分は皮膚の体温を上げることができる可能性がある事が分かりました。一般に、血流の改善は健康に有益であると考えられています。さらに、この音成分の皮膚体温を上げる効果は、冷え症等の改善に有効である可能性があります。これらの成果は、健康に有害である可能性が懸念されてきた低周波騒音の中に、むしろ健康に良い音成分が含まれている可能性を示しています。今後、健康障害を誘発する厄介者である可能性が議論されてきた低周波騒音（100Hz 以下の多様な周波数からなる騒音）から健康に良い音成分だけを抽出する技術（sound recycle^®）を開発することにより、低周波騒音に対する新しい対策が産み出されることも期待されます。
本研究の成果は、国際誌「Science of the Total Environment」（2020 年 9 月 30 日付）の電子版に掲載されました。

【ポイント】

○低周波騒音の中に健康に有益な音成分が含まれている可能性が明らかになりました。
○この音成分の短時間刺激により、皮膚血流が改善されることが分かりました。
○この音刺激は、耳ではなく血管に作用している可能性があります。

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【用語説明】

※1 ヘルツ（Hz）：高音や低音を表す音の周波数の単位。

【論文情報】

掲雑誌名：Science of the Total Environment
論文タイトル：Vascular endothelium as a target tissue for short-term exposure to low-frequency noise that increases cutaneous blood flow
著者：Yuqi Denga, Nobutaka Ohgamia, Takumi Kagawaa, Fitri Kurniasaria, Dijie Chena, Masashi Katob, Akira Tazakia, Masayo Aokia, Hiroki Katsutaa, Keming Tonga, Yishuo Gua, Masashi Katoa
所属：
aDepartment of Occupational and Environmental Health, Nagoya University Graduate School of Medicine, 65 Tsurumai-cho, Showa-ku, Nagoya, Aichi 466-8550, Japan.
bDepartment of Electrical and Mechanical Engineering, Nagoya Institute of Technology, Gokiso, Showa-ku, Nagoya 466-8555, Japan
DOI：10.1016/j.scitotenv.2022.158828

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Sci_220930en.pdf

【研究代表者】

大学院医学系研究科　加藤 昌志　教授
https://nu-hygiene.jimdofree.com
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_J/laboratory/basic-med/social-science/environmental-health/