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医歯薬学

2023.03.24

ヒト ES 細胞から視床下部神経幹細胞を作製 ~再生医療や加齢研究に貢献~

名古屋大学大学院医学系研究科糖尿病・内分泌内科学の三輪田 勤 医員(筆頭著者)、須賀 英隆 准教授(責任著者)および有馬 寛 教授らの研究グループは、ヒト胚性幹細胞(ヒト ES 細胞)※1を用い、視床下部神経幹細胞の性質を持つ細胞を新たに作製しました。
視床下部は生体内の恒常性の維持を司る脳の神経組織です。視床下部が障害されると下垂体ホルモン分泌不全、体温調節障害、肥満やそれに伴う生活習慣病を来しますが現在は対症療法しか治療法がなく生涯にわたり加療を必要とします。
近年、多能性幹細胞を用いた再生医療が注目を浴びており特に神経に関しては神経幹細胞※2 の移植が臨床応用されてきています。これまで本研究グループはマウス胚性幹細胞を用いて視床下部神経幹細胞の性質をもつ細胞を作製しましたが、今回はこの方法を改良することにより、ヒト ES 細胞からの視床下部神経幹細胞の作製に成功しました。この細胞は神経幹細胞の性質である自己複製能と多分化能とを有していました。またこの細胞を免疫不全モデルマウスの腹側視床下部に移植したところ、生着し視床下部神経細胞に分化することを確認しました。さらに将来この細胞を臨床応用につなげるために、細胞表面抗原※3 を利用して野生型のヒト ES 細胞から作製することにも成功しました。
本研究の成果は視床下部障害を認める患者への再生医療の実現に向けた研究を加速させるだけでなくマウスの視床下部神経幹細胞で分泌が報告されている抗加齢作用を持つエクソソーム※4 の研究に役立つと考えられます。
本研究は国立研究開発法人科学技術振興機構(JST) 創発的研究支援事業(研究開発代表者:須賀英隆)や、文部科学省科学研究費助成事業のサポートを受けて実施され、米国科学誌『Stem Cell Reports』の 2023 年 3 月 23 日付オンライン版に掲載されました。

 

【ポイント】

○ 本研究では、ヒト ES 細胞から視床下部神経幹細胞の作製に成功した。
○ 作製した神経幹細胞を免疫不全モデルマウスに移植することで、生着能と視床下部神経細胞への分化能とを確認した。
○ 細胞表面抗原を利用して野生型ヒト ES 細胞から視床下部神経幹細胞を作製可能であることが分かった。
○ この方法を応用することで、視床下部障害患者への再生医療や、加齢研究に貢献することが期待される。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

※1.胚性幹細胞(ES 細胞)
胚性幹細胞(ES 細胞)とは発生初期の動物胚に存在する内部細胞塊から作られる細胞で、あらゆる種類の体細胞へ分化する能力とほぼ無限に増殖する能力を合わせ持つ多能性幹細胞の 1 つである。
※2.神経幹細胞
神経幹細胞とは、分化することなく自ら増殖することができる自己複製能と、中枢神経系を構成する 3 系統の細胞(ニューロン、アストロサイト、オリゴ デンドロサイト)へと分化することができる多分化能とを有する細胞のことである。
※3.細胞表面抗原
細胞の表面に発現している抗原である。細胞表面抗原に蛍光色素を標識した抗体を反応させることで細胞を生きたまま選別することが可能である。
※4.エクソソーム
細胞から分泌される直径 50-150 nm(ナノメートル:10 億分の 1 メートル)の顆粒状の物質。その内部にマイクロ RNA などの細胞内物質を含んでおり細胞間の情報伝達に使われているといわれている。

 

【論文情報】

掲載誌名:Stem Cell Reports
論文タイトル:Generation of hypothalamic neural stem cell-like cells in vitro from human pluripotent stem cells
著者・所属
三輪田 勤¹、須賀 英隆¹、川口 頌平¹、榊原 真弓¹、加納 麻弓子¹、多賀 詩織²、宗圓 美香¹、尾崎 創¹、淺野 友良¹、佐々木 博勇³、宮田 崇¹、安田 康紀¹、小林 朋子¹、杉山 摩利子¹、尾上 剛史¹、高木 博史⁴、萩原 大輔¹、岩間 信太郎¹、有馬 寛¹
1. 名古屋大学大学院医学系研究科 糖尿病・内分泌内科学
2. 住友ファーマ株式会社
3. 名古屋大学大学院医学系研究科 脳神経外科科学
4. 名古屋市立大学大学院医学研究科 消化器・代謝内科学

 

DOI:10.1016/j.stemcr.2023.02.006

 

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Ste_230324en.pdf

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 有馬 寛 教授

https://www.med.nagoya-u.ac.jp/endodm/index.html