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医歯薬学

2023.04.27

健診と連携してパーキンソン病予備群を診断 -アンケートと画像検査によるリスク評価法の確立-

名古屋大学大学院医学系研究科神経内科学の勝野 雅央教授、服部 誠客員研究員(筆頭著者)らの研究グループは、国立研究開発法人国立長寿医療研究センターと共同で行った、難治神経変性疾患※1のひとつであるレビー小体病(パーキンソン病(PD)※2とレビー小体型認知症(DLB)※3 を合わせた名称)を対象とした臨床研究において、質問紙調査と画像検査を組み合わせることで、健康診断の受診者において将来のレビー小体病発症リスクを検出する方法を明らかにしました。
レビー小体病はαシヌクレイン※4 の神経細胞内蓄積を病理学的特徴とする神経変性疾患であり、パーキンソン病とレビー小体型認知症を含む疾患概念です。近年、レビー小体病では神経症状の発症 10〜20 年前から便秘やレム睡眠行動異常症(RBD)※5、嗅覚低下などの prodromal 症状(前触れ症状)が現れることが注目されていましたが、運動症状や認知機能障害が出現する前にレビー小体病予備群を抽出する方法は明らかではありませんでした。
勝野教授らの研究チームは、久美愛厚生病院(岐阜県高山市)、だいどうクリニック(愛知県名古屋市)の健診センターと連携し、これらの施設の健診受診者(年間約 1 万人)を対象としたレビー小体病の prodromal 症状に関する質問紙(アンケート)調査を実施しました。これまでの研究結果から、50 歳以上の健診受診者の約 8%が 2 つ以上の prodromal 症状を有するハイリスク者に該当することが分かっていました(Hattori et al. J Neurol 267(5):1516-1526, 2020)ので、本研究では質問紙調査で異常のあったハイリスク者 69 名と異常のなかったローリスク者 32 名の両群に対して、運動機能、認知機能、生理機能、ドーパミントランスポーターシンチグラフィ(DaT-SPECT)※6 や MIBG 心筋シンチグラフィ※7 などの画像検査を含む精密検査を実施しました。その結果、ハイリスク者では軽度の認知機能低下と嗅覚低下を認め、DaT-SPECT の異常率が約 4 倍高いことが明らかとなりました。
神経症状を有しないハイリスク者を通常診療で同定することは極めて困難でしたが、本研究の結果から、健康診断制度を活用し、質問紙と画像検査を組み合わせることでレビー小体病予備群が抽出可能であることが明らかとなりました。
本研究成果は、米国科学雑誌「npj Parkinson’s Diesease」(2023 年 4 月 26 日付の電子版)に掲載されました。

 

【ポイント】

○ レビー小体病はαシヌクレインの神経細胞内蓄積を病理学的特徴とする神経変性疾患であり、パーキンソン病(PD)とレビー小体型認知症(DLB)を含む疾患概念である。
○ 近年、レビー小体病では神経症状の発症 10〜20 年前から便秘やレム睡眠行動異常症(RBD)、嗅覚低下などの prodromal 症状(前触れ症状)を呈することが注目されている。
○ 本研究では、健診でのアンケートにおいて RBD、嗅覚低下、自律神経障害のうち 2 つ以上のprodromal 症状を有するハイリスク者 69 名と、それらを有しないローリスク者 32 名の両群に対して、運動機能、認知機能、生理機能、ドーパミントランスポーターシンチグラフィ(DaT-SPECT)や MIBG 心筋シンチグラフィを含む画像検査を実施した。
○ ハイリスク者ではローリスク者と比較して軽度の認知機能低下と嗅覚低下を認め、DaT-SPECTの異常率が約 4 倍高く、脳内のドーパミン神経の変性が始まっていることが明らかとなった。
○ DaT-SPECT の取り込み低下はパーキンソン病の運動障害と、MIBG 心筋シンチグラフィの異常は嗅覚低下と相関を認めた。
○ 健診受診者に対する簡便な質問紙調査と、DaT-SPECT や MIBG などの画像検査を組み合わせることにより、将来のレビー小体病の予備群を抽出可能であることが明らかとなった。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

※1 神経変性疾患:特定の種類の神経細胞が進行性に変性する(死滅する)疾患の総称。神経変性疾患に共通する病理学的な特徴として、神経細胞の中や周囲に異常な蛋白質が蓄積し、それによって特定の種類の神経細胞が障害されることが知られている。パーキンソン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症などが神経変性疾患の代表的疾患。
※2 パーキンソン病(PD):神経細胞内にαシヌクレインという異常な蛋白質が蓄積し、主に脳内のドーパミン神経に障害を起こすことで、振戦(手足の震え)、筋強剛(筋肉や関節がかたくなる)、動作緩慢、姿勢反射障害(転びやすくなる)などのパーキンソン症状を引き起こす進行性の難病。
※3 レビー小体型認知症(DLB):神経細胞内にαシヌクレインという異常な蛋白質が蓄積することで、幻視を始めとする認知機能障害やパーキンソン病に類似した運動症状を引き起こす進行性の難病。
※4 αシヌクレイン:レビー小体病患者の脳内に見られる異常な蛋白質の凝集体であるレビー小体の主成分。レビー小体病発症の重要な原因蛋白質の 1 つと考えられている。
※5 レム睡眠行動異常症(RBD):レム睡眠(浅い眠り)中に筋肉を抑制する神経の働きが悪くなり、夢の中の行動がそのまま寝言や体動となって現れる病気。
※6 ドーパミントランスポーターシンチグラフィ(DaT-SPECT): 123I-イオフルパンという物質を注射して脳のドーパミントランスポーターの働きを調べる画像検査。パーキンソン病やレビー小体型認知症の患者では脳内のドーパミン神経が変性・脱落するため、123I-イオフルパンの取り込みが低下する。
※7 MIBG 心筋シンチグラフィ:123I-MIBG という物質を注射して心臓の交感神経の働きを調べる画像検査。パーキンソン病やレビー小体型認知症の患者では自律神経障害が出現するため、MIBGの心筋への取り込みが低下する。

 

【論文情報】

掲載誌名:npj Parkinson’s Disease
論文タイトル:Clinico-imaging features of subjects at risk of Lewy body disease in NaT-PROBE baseline analysis
著者:
Makoto Hattori, MD, PhD1, Keita Hiraga, MD1, Yuki Satake, MD1, Takashi Tsuboi, MD, PhD1, Daigo Tamakoshi, MD1, Maki Sato1, Katsunori Yokoi, MD, PhD2, Keisuke Suzuki, MD, PhD3, Yutaka Arahata, MD, PhD2, Akihiro Hori, MD, PhD4, Motoshi Kawashima, MD5, Hideaki Shimizu, MD, PhD5, Hiroshi Matsuda, MD, PhD6, Katsuhiko Kato, MD, PhD7, Yukihiko Washimi, MD, PhD2, Masahisa Katsuno, MD, PhD1,8*
所属:
1 Department of Neurology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
2 Department of Neurology and Center for Comprehensive Care and Research Center on Memory Disorders, National Center for Geriatrics and Gerontology, Obu, Aichi, Japan
3 Innovation Center for Translational Research, National Center for Geriatrics and Gerontology, Obu, Aichi, Japan
4 Kumiai Kosei Hospital, Takayama, Gifu, Japan
5 Medical Examination Center, Daido Clinic, Nagoya, Japan
6 Department of Biofunctional Imaging, Fukushima Medical University, Fukushima, Japan
7 Functional Medical Imaging, Biomedical Imaging Sciences, Division of Advanced Information Health Sciences, Department of Integrated Health Sciences, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
8 Department of Clinical Research Education, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan

 

DOI: 10.1038/s41531-023-00507-y

 

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/npj_230426en.pdf

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 勝野 雅央 教授
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/neurology/