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医歯薬学

2023.04.14

ケトン体産生を介した内因性炎症の抑制が慢性腎臓病を改善 〜肥満による慢性腎臓病発症進展の病態解明と治療法開発に光〜

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院医学系研究科 分子循環器医学(興和)寄附講座の大橋浩二 特任准教授、大内乗有 特任教授、循環器内科学の方 麗欣 大学院生、室原豊明教授の研究グループは、脂肪組織由来分泌因子であるアディポリンの慢性腎臓病に対する防御作用とそのメカニズムを明らかにしました。
慢性腎臓病は国民の 8 人に 1 人が罹患する頻度の高い疾患であり、高率に腎不全に移行するため大きな社会問題になっています。肥満は糖尿病や高血圧を引き起こすことで慢性腎臓病を引き起こすことに加え、肥満そのものが慢性腎臓病の危険因子であることが明らかとなってきていますが、そのメカニズムは明らかではありませんでした。大橋浩二 特任准教授、大内乗有 特任教授の研究グループは以前、肥満により発現が低下し2型糖尿病に防御的に作用する新規脂肪組織由来因子としてアディポリンを発見しました。本研究では、新たにアディポリンが慢性腎臓病に防御的に作用することを発見しました。
本研究グループは、アディポリンを欠損させたマウスに慢性腎臓病モデルを作製すると、対照マウスと比較して慢性腎臓病がより進行し、アディポリンを補充することにより進行が抑制されることを見出しました。近年ケトン体※1 の脳神経、心血管に対する臓器保護作用が多く報告されてきています。アディポリン欠損マウスの腎臓では腎臓組織中のケトン体(βヒドロキシ酪酸)が低下しており、アディポリンの補充によりケトン体が増加していました。その結果から、本研究グループは、アディポリンは腎臓において PPARα※2 を介してケトン体合成酵素の発現を上昇させることでケトン体産生を促し、内因性炎症であるインフラマソーム※3 を抑制することにより腎保護作用を発揮することを見出しました。本研究成果は、肥満で低下するアディポリンが慢性腎臓病を抑制することにより、肥満による慢性腎臓病発症のメカニズム解明と治療法の開発に繋がることが期待されます。
なお、本研究は大阪大学大学院医学系研究科、および同研究科の下村伊一郎 教授、前田法一准教授の協力を得て行われました。本研究成果は、2023 年 4 月 7 日付で米国科学誌「iScience」にオンライン掲載されました。

 

【ポイント】

○ 肥満で血中濃度が低下するアディポリンは、慢性腎臓病に防御的に作用することを明らかにした。
○ アディポリンは、PPARαを介したケトン体増加により内因性炎症を抑制し、腎保護作用を発揮することを新たに見出した。
○ アディポリンは、肥満に伴う慢性腎臓病の新しい治療標的になりうる。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

※1. ケトン体:絶食や糖尿病等、ブドウ糖が利用できない時に脂肪酸が酸化され、エネルギー源として利用される。アセトン、アセト酢酸、βヒドロキシ酪酸の総称で、エネルギー源としては主にβヒドロキシ酪酸が利用される。
※2. PPARα:核内転写因子の一つで、主に脂肪酸代謝に関連する遺伝子の転写調節を行う。
※3. インフラマソーム:生体内ダメージで生じた物質や微生物由来の物質に応答して生じる内因性の炎症。

 

【論文情報】

掲雑誌名:iScience
論 文 タ イ ト ル : Adipolin protects against renal injury via PPARα-dependent reduction of inflammasome activation
著者:
Lixin Fang 1, Koji Ohashi 2, Satoko Hayakawa 1, Hayato Ogawa 1, Naoya Otaka 1, Hiroshi Kawanishi 1, Tomonobu Takikawa 1, Yuta Ozaki 1, Kunihiko Takahara 1, Minako Tatsumi 2, Mikito Takefuji 1, Yuuki Shimizu 1, Yasuko K Bando 1, Yuya Fujishima 3, Norikazu Maeda 3, ichiro Shimomura 3, Toyoaki Murohara 1 and Noriyuki Ouchi 2
所属:
1 Department of Cardiology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
2 Department of Molecular Medicine and Cardiology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
3 Department of Metabolic Medicine, Osaka University Graduate School of Medicine, Osaka, Japan

 

DOI: 10.1016/j.isci.2023.106591

 

 

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/iSc_230414en.pdf

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 大橋 浩二 特任准教授
https://www.med-nagoya-junnai.jp/