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化学

2023.04.20

高密度に酸基を有する高伝導高分子電解質膜を開発 ~次世代燃料電池・水電解装置開発等に資する脱炭素技術~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院工学研究科の野呂 篤史 講師(未来社会創造機構 マテリアルイノベーション研究所及び脱炭素社会創造センター兼務)らの研究グループは、新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)が実施する「燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業(革新FC事業)」において、次世代燃料電池・水電解注6)装置等での利用が期待される、高密度に酸基を有する高伝導高分子電解質膜を新たに開発しました。
本研究では、従来まで合成の難しかった高密度に酸基を有する高分子電解質膜(従来型のものと比べて酸基の密度が5倍以上)を開発しました。燃料電池を使用する一般的な温湿度下(たとえば80℃、90%RH)において、従来型の電解質膜が示す伝導率(0.15 S/cm)を大きく上回り、6倍以上の高伝導率(0.93 S/cm)を示すことが確認されました。
2040年代の燃料電池は、現在よりもはるかに厳しい作動条件(すなわち、より高い温度、より低い湿度)での使用が想定されています。今回の電解質膜開発で用いた技術は、厳しい作動条件でも高伝導率を示す高分子電解質膜の合成・開発に資する脱炭素技術です。
本研究成果は、2023年4月19日午後9時(日本時間)付でアメリカ化学会雑誌「ACS Applied Polymer Materials」のオンライン版にオープンアクセス論文として掲載されました。

 

【ポイント】

・従来まで合成の難しかった高密度に酸基注1)を有する高伝導高分子電解質膜注2)を新たに開発。
・酸基の密度は従来型のものと比べて5倍以上。
・燃料電池注3)を使用する一般的な温湿度注4)下(たとえば80℃、90%RH)で、従来型電解質膜が示す伝導率注5)の6倍以上の伝導率(0.93 S/cm)。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)酸基:
酸性の官能基(特定の化学構造を持つ基、原子団。)。たとえばスルホン酸基-SO3H。

 

注2)高分子電解質膜:
固体高分子形燃料電池で使用される重要構成パーツ。ポリマー(分子量の大きな高分子)からなり、膜内において水素イオン(プロトン)を輸送する能力を持つ。高分子電解質膜を構成するポリマーは通常スルホン酸基を有する。電解質膜とも呼ばれ、英語ではPolymer electrolyte membraneと記すため、略してPEM(膜)とも呼ばれる。

 

注3)燃料電池:
水素と酸素を電気化学的に反応させて電気を発生させる装置。反応時に水を生成する。二酸化炭素は生成しない。燃料電池自動車や家庭用燃料電池コジェネレーションシステム(エネファーム)等に用いられている。固体高分子形燃料電池(PEFC)や固体酸化物形燃料電池(SOFC)など、いくつかの種類がある。燃料電池は英語ではFuel cellと記すため、略してFCと呼ばれる。

 

注4)温湿度:
温度と湿度。温度は摂氏温度で、単位は℃。湿度は相対湿度で、その空気中に含んでいる水蒸気量(分圧)を、同一温度下で空気中に含みうる水蒸気の最大量(飽和水蒸気圧)で割ったもの。単位は%RH。現在使用されている固体高分子形燃料電池の一般的な使用条件は60~90℃、70~90%RH。

 

注5)伝導率:
高分子電解質膜中におけるプロトンの移動のしやすさ、輸送のされやすさ。プロトンの伝導のしやすさ。単位はS/cm。燃料電池の一般的な使用条件(たとえば80℃、90%RHの温湿度)下で0.1 S/cm程度の伝導率を発現することが求められる。

 

注6)水電解:
水の電気分解。電気エネルギーを用いて水を分解し、水素と酸素を生成させる反応。燃料電池の逆反応。

 

【論文情報】

雑誌名:ACS Applied Polymer Materials
論文タイトル:Synthesis of a Cross-linked Polymer Electrolyte Membrane with an Ultra-High Density of Sulfonic Acid Groups
著者:佐藤克海(元名古屋大学大学院生)、梶田貴都(名古屋大学研究員)、野呂篤史(名古屋大学講師)
DOI:10.1021/acsapm.3c00150  
URL: https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsapm.3c00150

 

【研究代表者】

大学院工学研究科/未来社会創造機構 野呂 篤史 講師
https://phys-chem-polym.chembio.nagoya-u.ac.jp/member-noro.html