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医歯薬学

2023.05.29

要介護認定リスクと健診検査値のU字型の関係を同定 ~要介護認定情報と健診データを用いた後ろ向きコホート研究~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院医学系研究科 実社会情報健康医療学の中杤 昌弘 准教授、名古屋大学医学部附属病院の水野 正明 病院教授、杉下 明隆 病院助教らの研究グループは、愛知県北名古屋市住民対象とした要介護認定情報と健康診断情報を基に後ろ向きコホート研究を実施し、要介護認定のリスクマーカーの探索を行いました。その結果、肥満度(BMI)、収縮期血圧、高密度リポ蛋白(HDL)コレステロール、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(γ-GTP)は、要介護認定リスクとU字型の関係にあることを発見しました。
古典的な解析アプローチでは、検査値と要介護認定リスクが比例関係にある前提で評価を行いますが、本研究の結果から、要介護認定リスクの予測においては比例関係ではないU字型の関係を考慮することが必要になると期待されます。
本研究成果は、2023年5月22日付国際科学雑誌「Scientific Reports」に掲載されました。

 

【ポイント】

・要介護注1)者を減らすためには、介護が必要になるリスクの高い人々を特定し、予防的な健康介入によって健康寿命を延ばすことが重要である。そのためには、高リスク者を特定するための適切で感度の高いリスクマーカーを見つける必要がある。
・愛知県北名古屋市から提供を受けた要介護認定情報と健康診断の情報をもとに、65歳以上の3,718例を対象とした後ろ向きコホート研究注2)(追跡期間8.5年間)を行った。
・追跡期間中に毎年取得されてきた健診データをすべて分析に利用できるように、時間依存性共変量注3)Cox回帰モデル注4)を採用した。さらに、健診検査項目と要介護認定リスクのU字型の関係を評価できるように制限付き三次スプライン注5)を考慮したCox回帰モデルも採用した。
・分析の結果、BMI、収縮期血圧、HDLコレステロール、ALT、AST、γ-GTPは、要介護認定リスクとU字型の関係にあることを発見した。すなわち、これらの検査値は高くても低くても要介護認定リスクが上昇することを明らかにした。
・従来の古典的な解析アプローチでは、検査値と要介護認定リスクが比例関係にある前提で評価を行うことが多いが、本研究で得られた結果から、要介護認定リスクの予測においては比例関係ではないU字型の関係を考慮する必要があると分かった。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)要介護:
身体機能だけでなく思考力や理解力が低下し、基本動作を自分で行うことができず、支援や介護を必要とする状態。

 

注2)後ろ向きコホート研究※:
コホートを対象に、過去の情報(今回の場合、健診データや要介護認定の記録)から過去の追跡を行う研究。
※コホート研究:特定の集団を一定期間追跡し、注目したイベント(今回は要介護認定)の発生率を比較・評価する観察研究の手法。

 

注3)時間依存性共変量:
追跡期間中に取得された情報(今回の場合、毎年の健診データ)をCox回帰モデルに含めて分析する方法。

 

注4)Cox回帰モデル:
コホート研究のような追跡データで注目したイベントとの関係を評価するためによく用いられる統計解析手法。

 

注5)制限付き三次スプライン:
Cox回帰モデルなどで比例関係ではない関係を表現するための方法。

 

【論文情報】

雑誌名: Scientific Reports
論文タイトル: U-shaped Link of Health Checkup Data and Need for Care using a Time-dependent Cox Regression Model with a Restricted Cubic Spline
著者: 中杤昌弘*, 杉下明隆, 渡辺千尋, 渕田英津子, 水野正明*
(*は責任著者、下線は名古屋大学関係者)
DOI: 10.1038/s41598-023-33865-x                      
URL: https://www.nature.com/articles/s41598-023-33865-x

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科総合保健学専攻 中杤 昌弘 准教授
https://www.pubhealthinfo.com/

 

医学部附属病院先端医療開発部 水野 正明 病院教授

https://www2.nu-camcr.org/