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医歯薬学

2023.07.18

進行期慢性腎臓病患者における収縮期血圧の目標下限値と腎機能低下の関連を調査 ~目標下限値 110mmHg 以上は腎機能保持に有用~

名古屋大学大学院医学系研究科腎臓内科学の倉沢史門(臨床研究教育学 助教)(研究当時)、丸山彰一教授らの研究グループは、「慢性腎臓病進行例(CKD G3b~G5)の予後向上のための予後、合併症、治療に関するコホート研究」(REACH-J-CKD コホート研究)の情報を用いて、収縮期血圧の目標下限値と腎機能低下速度の関連を調査しました。その結果、進行期慢性腎臓病患者の収縮期血圧の目標下限値を110mmHg 以上とする診療方針は、推定糸球体濾過量*1(eGFR)変化 +1ml/min/1.73m2/年の改善に関連することを明らかにしました。この研究は、日本医療研究開発機構の「慢性腎臓病(CKD)進行例の実態把握と透析導入回避のための有効な指針の作成に関する研究」および「診療連携・国際連携をも視野にいれた、生活習慣病、CKD の診療の質向上に直結する多施設長期コホート研究」の支援のもと、REACH-J-CKD コホート研究の山縣邦弘 研究代表者(筑波大学医学医療系腎臓内科学 教授)らとの共同研究として行ったものです。
慢性腎臓病*2(CKD)を有する患者の多くは高血圧症を合併し、腎機能保持や心血管病の予防のために血圧管理が重要です。高血圧が腎機能悪化や心血管病の原因となる一方で、過度な降圧により急性腎障害(急激な腎機能の悪化)などの有害事象も増加することが知られています。特に CKD 患者は血圧の変動が大きく、厳格な降圧目標により過度な血圧低下を起こしやすく、その影響を受けやすい集団といえます。そのため、血圧変動の中で、下限値にも注意を払う必要があると考えられますが、その意義や最適な目標下限値についてはわかっていませんでした。
本研究グループは、REACH-J-CKD コホート研究の参加施設の腎臓内科医 91 名を対象に行われた診療方針等に関するアンケート調査結果と、登録された進行期 CKD 患者のうち基準に合致する 1,320 名の情報を基に、収縮期血圧の目標下限値を 110mmHg 以上と回答した医師の施設毎の割合と、患者のeGFR 変化(登録前 4 年前から登録時まで)の関連を評価しました。目標下限値を 110mmHg 以上とする診療方針は、100mmHg 以下とする方針と比較して、eGFR 低下速度 1ml/min/1.73m2/年の改善と関連しました。なお、110mmHg 以上と回答した医師は全体の 22〜36%で少数派でした。
これらの結果から、進行期 CKD 患者の血圧管理においては、血圧変動の中で下限値にも注意を払い、具体的には 110mmHg を下限値とすることの有用性が示唆されました。特に血圧変動が大きい場合に、過降圧とならないようにやや高めの血圧管理とすることで腎機能を保持しやすくなると考えられます。
本研究成果は、2023 年7月 18 日付オンライン版『Hypertension Research』に掲載されました。

 

【ポイント】

○ eGFR<45ml/min/1.73m2 以下の慢性腎臓病(CKD)患者において、収縮期血圧の目標下限値を110mmHg 以上にする診療方針は良好な腎機能保持に関連した。
○ 観察された腎保護効果は、75 歳以上の高齢者や心血管病既往のある患者で大きい傾向だった。
○ 収縮期血圧の目標下限値を 110mmHg 以上にする腎臓内科医は少数派であり、本研究結果などに基づき診療方針を最適化することで、多くの CKD 患者の腎予後を改善する余地がある。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

*1 糸球体濾過量:単位時間あたりに腎臓の糸球体という部分で濾過される血液の量のことです。簡単に測定することができないため、血清クレアチニン濃度、年齢、性別から計算した推定糸球体濾過量(eGFR)が腎機能の指標として広く用いられています。
*2 慢性腎臓病:慢性的に腎機能の低下(eGFR<60ml/min/1.73m2)または尿異常が続く状態を指します。

 

【論文情報】

雑誌名: Hypertension Research
論文タイトル: Relationship between the lower limit of systolic blood pressure target and kidney function decline in advanced chronic kidney disease: an instrumental variable analysis from the REACH-J CKD cohort study
著者・所属: Shimon Kurasawa1,2, Yoshinari Yasuda1, Sawako Kato1, Shoichi Maruyama1, Hirokazu Okada3, Naoki Kashihara4, Ichiei Narita5, Takashi Wada6, and Kunihiro Yamagata7; the REACH-J CKD collaborators
1 Department of Nephrology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
2 Department of Clinical Research Education, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
3 Department of Nephrology, Saitama Medical University, Saitama, Japan
4 Department of Nephrology and Hypertension, Kawasaki Medical School, Okayama, Japan
5 Division of Clinical Nephrology and Rheumatology, Niigata University Graduate School of Medical and Dental Science, Niigata, Japan
6 Department of Nephrology and Laboratory Medicine, Kanazawa University,Ishikawa, Japan
7 Department of Nephrology, Faculty of Medicine, University of Tsukuba, Tsukuba, Japan
DOI: 10.1038/s41440-023-01358-z

 

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Hyp_230718en.pdf

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 丸山 彰一 教授

https://www.nagoya-kidney.jp