早稲田大学理工学術院の乗松 航(のりまつ わたる)教授(名古屋大学客員教授)らの研究グループは、名古屋大学博士後期課程学生の榊原 涼太郎(さかきばら りょうたろう)、中国内モンゴル民族大学講師の包 建峰(ほう けんほう)、日本原子力研究開発機構研究員の寺澤 知潮(てらさわ ともお)、名古屋大学未来材料システム研究所名誉教授の楠 美智子(くすのき みちこ)らとの共同研究で、半導体表面を原子レベルで平坦にする新技術として応用可能な、ステップアンバンチング現象を発見しました。
パワーデバイス材料として使われる半導体であるSiCにおいて、ウェハの表面を原子レベルで平坦にすることは、デバイス特性や新材料作製に関して極めて重要です。SiCウェハ表面は、ステップと呼ばれる原子1個程度の高さ(約0.25 nm)の段差を持っています。SiCを加熱すると、表面の原子が移動することでステップが集まり、はじめに1~1.5 nmの高さステップを形成し、さらに高温で加熱すると数nm~数十nmのステップになります。これはステップバンチングと呼ばれ、ステップが次第に高くなっていくことはあっても、低くなることはないと旧来考えられてきました。このたび本研究グループは、ある特定の条件下に置くと、一旦高くなったステップが低くなることを見出しました。これをステップアンバンチング現象と名付けました。
従来の半導体製造技術には、表面は非常に平坦にできるものの加工によるダメージ層が残る手法や、ダメージ層はないものの表面が少し荒くなる手法はありました。それに対して本研究の手法では、単一のシンプルなプロセスで、ダメージ層もなく原子レベルで平坦な表面を得ることができます。従って、半導体製造工程のコストと時間を大幅に削減できる可能性があると期待されます。
本成果は、2023年7月19日(水)付(現地時間)で、米国物理学協会が発行する『Applied Physics Letters』誌に掲載されました。本研究は、文科省科研費基盤研究Bや、早稲田大学各務記念材料技術研究所共同利用・共同研究拠点事業などの支援のもとで行われたものです。
● 従来の半導体製造技術では、SiCウェハ表面を非常に平坦にできるものの加工によるダメージ層が残ったり、ダメージ層はないものの表面が荒くなったりしてデバイス特性に悪影響を及ぼすという課題がありました。
● SiCウェハ表面を単一のシンプルなプロセスで、ダメージ層もなく原子レベルで平坦にする新技術として応用可能なステップアンバンチング現象を発見しました。
● 半導体製造工程において、化学機械研磨を含むプロセスが不要になり、コストと時間を大幅に削減できる可能性があると期待されます。
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雑誌名:Applied Physics Letters
論文名:Step unbunching phenomenon on 4H-SiC (0001) surface during hydrogen etching
執筆者名(所属機関名、役割):Ryotaro Sakakibara (名古屋大学、実験・解析・論文執筆)、Jianfeng Bao (名古屋大学・内モンゴル民族大学、実験・解析・論文編集)、Keisuke Yuhara (名古屋大学、実験)、Keita Matsuda (名古屋大学、実験・解析)、Tomo-o Terasawa (名古屋大学・日本原子力研究開発機構、実験・解析・論文編集)、Michiko Kusunoki (名古屋大学、解析・論文編集)、and Wataru Norimatsu (名古屋大学・早稲田大学、総括・解析・論文執筆)
掲載予定日(現地時間):2023年7月19日(水)
掲載URL:https://pubs.aip.org/aip/apl/issue/123/3
DOI:https://doi.org/10.1063/5.0153565