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環境学

2023.09.29

木材の主要成分リグニンの化合物から、温和な条件でメタノールと水素の抽出に成功 ~二酸化炭素排出をおさえた廃棄バイオマスの利用を加速~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院環境学研究科の日比野 高士 教授、 ジンチェンコ アナトーリ 准教授らの研究グループは、株式会社SOKENとの共同研究で、廃棄バイオマスの一つであるリグノスルホン酸塩を温和な条件下で電気分解して、陽極でメタノール及び陰極で水素を合成する手法を新たに開発しました。
バイオマスとして注目されるリグニン注7)は木材重量の20-35%を占め、パルプ・製紙工場ではリグノスルホン酸塩として分離されます。しかしリグノスルホン酸の利用法は限られており、カーボンニュートラル注8)に向けた資源循環の観点から、今後はリグノスルホン酸塩を高付加価値化する化学変換法が強く求められます。従来の熱・触媒反応ではリグノスルホン酸塩をバニリン注9)、フェノール、バイオオイル注10)、シンガス注11)に変換していましたが、本研究では新発想として酸化剤を電気化学的に陽極で生成し、リグノスルホン酸塩のメトキシ基注12)を攻撃することによってメタノールを高効率で抽出できました。この反応は、燃料や医薬品原料など幅広い用途があるメタノールを産生するだけでなく、低環境負荷な反応条件(75℃・大気圧)のため電源として再生可能エネルギーが活用可能なこと、また代替燃料となる水素を併産することから、バイオマス利用プロセスにおいて二酸化炭素排出量の削減に大きく貢献できると期待されます。
本研究成果は、2023年9月23日付学術雑誌「Applied Catalysis B: Environmental」にオンライン速報版で掲載されました。

 

【ポイント】

・バイオマス注1)廃棄物であるリグノスルホン酸塩注2)から、温和な条件での電気分解により、陽極注3)でメタノール、陰極注4)で水素を高効率に抽出することができた。
・メタノール生成の電流効率注5)は90%以上、収率注6)は40%以上に達した。
・バイオマス利用プロセスにおける二酸化炭素排出量の削減に大きく貢献できることが期待される。

 
◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)バイオマス:
生物由来の再生可能資源。植物系バイオマスの場合、二酸化炭素を吸収して育つので、燃やして二酸化炭素を出しても、(プロセス中で外部から人工エネルギーの投与が無ければ)大気中の二酸化炭素濃度に増減がないと考えられている。
注2)リグノスルホン酸塩:
木材などから製紙用パルプを製造する際に、亜硫酸法を用いて分離・単離されたリグニン誘導体(工業リグニン)。本実験ではスルホン酸ナトリウム基(-SO3Na)を官能基として有している市販の粉末サンプルを使用した。
注3)陽極:
電気分解を行う反応槽で、プラスの電位が掛けられ、酸化反応をもたらす電極。
注4)陰極:
注3の反応槽で、マイナスの電位が掛けられ、還元反応をもたらす電極。
注5)電流効率:
反応槽に流れた電流に対する実際に目的物を得るために使われた電流の比率。
注6)収率:
原料が反応して目的物になる理論量に対する実際に得られた目的物の量の比率。
注7)リグニン:
植物中で多糖であるセルロース、ヘミセルロースと強く結合し存在している。その化学構造は多数のベンゼン環がエーテル結合を介してから複雑につながっている。
注8)カーボンニュートラル:
二酸化炭素の放出量と吸収量が相殺され、二酸化炭素の排出量をゼロと見なすことができる状態。
注9)バニリン:
C8H8O3の化学式をもつ芳香族有機化合物。主な用途はアイスクリームなどのバニラの原料である。
注10)バイオオイル:
バイオマスを小分子化した液体有機化合物群。
注11)シンガス:
バイオマス、石炭、天然ガスなどを高温で主に水蒸気と反応させて得られる水素と一酸化炭素。
注12)メトキシ基:
-OCH3で表される置換基。リグニンには一つのベンゼン環に最大で二つのメトキシ基が官能基として結合している。

 

【論文情報】

雑誌名: Applied Catalysis B: Environmental
論文タイトル: Electrochemical extraction of methanol from lignin under mild conditions
著者: 日比野 高士*, 小林 和代, 周 冬文, 陳 思遠, ジンチェンコ アナトーリ, 寺西 真哉, 宮脇 亜紀, 沢田 義治 (*は責任著者、下線は本学関係者)
DOI: 10.1016/j.apcatb.2023.123328                           
URL: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0926337323009712

 

【研究代表者】

大学院環境学研究科 日比野 高士 教授
https://www.urban.env.nagoya-u.ac.jp/~hibino/index.html