名古屋大学大学院医学系研究科の安藤良太 研究員、榎本篤 教授、藤田医科大学国際再生医療センターの髙橋雅英 センター長らの研究グループは、膵臓に存在する膵星細胞が、慢性膵炎や膵がんなどの膵臓病における線維化、および膵臓の修復に重要な役割を担っていることを明らかにしました。
膵星細胞は、膵臓病における線維化との関わりで近年注目されている細胞ですが、生体内での形や性質、働きについては詳しくわかっていません。安藤研究員らは、膵星細胞に存在する膜タンパク質メフリン(Meflin、遺伝子名Islr )が、この細胞を特定するためのマーカー(目印)として利用できることを発見しました。これにより、慢性膵炎や膵がんといった膵臓病で、膵星細胞がどのようなふるまいをしているのか、詳しく解析することが可能となりました。
慢性膵炎や膵がんといった膵臓の病気では、病気を進行させ、治療を困難にする線維化とよばれる現象が起こります。しかし、線維化を引き起こす線維芽細胞の起源や機能について、まだ多くの点が未解明です。今回の研究では、膵星細胞が、慢性膵炎や膵がんで線維芽細胞を生み出す源となっていることがわかりました。さらに、慢性膵炎では、膵星細胞が膵臓の修復(線維化の抑制や細胞増殖のサポート)に関わっている可能性も見えてきました。これらの発見は、膵星細胞や線維芽細胞の研究の突破口となり、線維化のメカニズムの解明に向けた今後の研究の基盤となることが期待されます。
この研究成果は、国際科学雑誌「The Journal of Pathology」電子版(2023 年10 月 5 日付)に掲載されました。
・膵星細胞(注※1)に存在する膜タンパク質メフリン(注※2)(Meflin、遺伝子名Islr )が、膵星細胞のマーカー(細胞を特定するための目印)として使えることを発見し、この新しいマーカーを利用して、膵臓の中での膵星細胞のふるまいを詳しく解析することに成功しました。
・慢性膵炎や膵がんでは、病気を進行させ、治療を困難にする線維化(注※3)とよばれる現象が起こりますが、その原因である線維芽細胞の起源や働きについて、解明されていない点が多く残されています。
・今回の研究の結果、膵星細胞が線維芽細胞を生み出す源となっていることがわかりました。また、慢性膵炎では、膵星細胞が膵臓を修復しようとする働きを持っている可能性が示されました。
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※1 膵星細胞(すいほしさいぼう):膵臓の間質に存在する細胞で、細胞突起を持ち、細胞の形状が星形に見えることから膵星細胞とよばれます。膵星細胞の役割は完全にはわかっていませんが、正常な膵臓では、間質の恒常性を保つ働きがあります。膵炎や膵がんでは、膵臓の線維化に深くかかわっていると考えられており、病態をつかさどる細胞として注目されています。
※2 メフリン(Meflin、遺伝子名Islr ):膜タンパク質(細胞膜に付着するタンパク質)の一種です。詳しい機能はまだわかっていませんが、これまでに、本研究グループは、メフリンを間葉系幹細胞や線維芽細胞の特異的マーカーとして報告しています(参考文献[10][11])。
※3 線維化:線維芽細胞の産生したコラーゲンなどの物質(線維)が、臓器の間質に蓄積してしまう現象です。病気による傷害を修復しようとする現象ですが、病気をより悪化させてしまうことがあります。
[10] Maeda K, Enomoto A, Hara A, Asai N, Kobayashi T, Horinouchi A, et al. Identification of Meflin as a Potential Marker for Mesenchymal Stromal Cells. Sci Rep 2016;6:22288.
[11] Hara A, Kato K, Ishihara T, Kobayashi H, Asai N, Mii S, et al. Meflin defines mesenchymal stem cells and/or their early progenitors with multilineage differentiation capacity. Genes Cells 2021;26:495–512.
雑誌名:The Journal of Pathology
論文タイトル:
Meflin is a marker of pancreatic stellate cells involved in fibrosis and epithelial regeneration in the pancreas
著者名・所属名:
安藤 良太(名古屋大学大学院医学系研究科腫瘍病理学・分子病理学)
白木 之浩(名古屋大学大学院医学系研究科腫瘍病理学・分子病理学)
宮井 雄基(名古屋大学医学部附属病院化学療法部)
清水 啓紀(名古屋大学大学院医学系研究科腫瘍病理学・分子病理学)
古橋 和拡(名古屋大学大学院医学系研究科腎臓内科学)
湊口 俊(藤田医科大学医学部腎臓内科学)
加藤 勝洋(名古屋大学大学院医学系研究科循環器内科学)
加藤 彰(名古屋大学未来社会創造機構)
飯田 忠(名古屋大学大学院医学系研究科消化器内科学)
水谷 泰之(名古屋大学大学院医学系研究科消化器内科学)
伊藤 喜介(名古屋大学大学院医学系研究科腫瘍外科学)
浅井 直也(藤田医科大学医学部病理学)
三井 伸二(名古屋大学大学院医学系研究科腫瘍病理学・分子病理学)
江﨑 寛季(名古屋大学大学院医学系研究科腫瘍病理学・分子病理学)
髙橋 雅英(藤田医科大学国際再生医療センター)
榎本 篤(名古屋大学大学院医学系研究科腫瘍病理学・分子病理学)
DOI: 10.1002/path.6211
English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/The_231006en.pdf