国立大学法人東海国立機構 名古屋大学 大学院医学系研究科眼科学の山田和久 大学院生、兼子裕規 准教授、同研究科生体反応病理学 豊國伸哉 教授、同研究科環境労働衛生学 田﨑啓講師、国立大学法人北海道国立大学機構 帯広畜産大学 原虫病研究センター創薬研究部門先端治療学分野 西川義文 教授らの研究グループは、眼トキソプラズマ症の患者において硝子体中の鉄の濃度が低下していることを発見し、眼トキソプラズマ症のモデルマウスで網膜内への鉄の取り込みが起きており、鉄を伴う細胞死であるフェロトーシスが起こっていること、また鉄のキレート剤であるデフェリプロンを使用することで眼トキソプラズマ症によるぶどう膜炎を抑制できることを明らかにしました。
トキソプラズマは南米を中心に全人類の 1/3 以上が感染しているとされるほど世界中に広く蔓延しており、その主症状のひとつとして眼トキソプラズマ症が知られています。約 24%の患者では片眼視力が少なくとも法的失明レベルまで低下する疾患で、最も信頼性の高い眼内液のPCR 検査を用いてもトキソプラズマの検出率は 3 割程度にとどまっており、医療後進地域でも施行可能な診断法と治療方法の確立が求められています。
本研究では、眼トキソプラズマ症の患者の硝子体液中の鉄の濃度が他の眼疾患と比較して有意に低下していることを発見し、LA−ICP−MS※2 という質量分析を行うことで、眼トキソプラズマ症患者の網膜切片およびトキソプラズマ感染マウスの眼球において、通常見られない網膜内への鉄の取り込みが亢進していることを明らかにしました。またこの鉄の取り込みにおいて、フェロトーシスが関与していることを示しました。さらにトキソプラズマ感染マウスに対してデフェリプロンの投与を行うことで、網膜内の鉄の集積が低下し、眼トキソプラズマ症の改善が認められることを確認しました。
本研究成果は「Redox Biology」2023 年 9 月 21 日付電子版に掲載されました。
・眼トキソプラズマ症の患者において、硝子体液中の鉄の濃度が低下していることを示した。
・トキソプラズマに感染させたマウスモデルにおいて、網膜でのフェロトーシス※1 が起きていることを示した。
・鉄のキレート剤であるデフェリプロンの投与により眼トキソプラズマ症での鉄の集積の低下、網脈絡膜炎の改善が見られた。
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※1 フェロトーシス : 2012 年に Dixon らによって報告された過酸化脂質の蓄積を特徴とする鉄依存性のプログラム細胞死。
※2 LA−ICP−MS : レーザーアブレーション ICP 質量分析法。レーザーを使用して試料を微粒子化し、生成したイオンを質量分析で測定する。
雑誌名:Redox Biology
論文タイトル:
Retinal ferroptosis as a critical mechanism for the induction of retinochoroiditis during ocular toxoplasmosis
著者名・所属名:
Kazuhisa Yamada a, Akira Tazaki b, Nanako Ushio-Watanabe c, Yoshihiko Usui d, Atsunobu Takeda e, Masaaki Matsunaga f, Ayana Suzumura a, Hideyuki Shimizu a, Hao Zheng g, Nanang R. Ariefta c, Masahiro Yamamoto h, Hideaki Hara i, Hiroshi Goto d, Koh-Hei Sonoda e, Koji M Nishiguchi a, Masashi Kato b, Yoshifumi Nishikawa c, Shinya Toyokuni g, j, Hiroki Kaneko a
a Department of Ophthalmology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, 466-8560, Japan
b Department of Occupational and Environmental Health, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Aichi, Japan
c National Research Center for Protozoan Diseases, Obihiro University of Agriculture and Veterinary Medicine, Obihiro, 080-8555, Japan
d Department of Ophthalmology, Tokyo Medical University, Tokyo 160-8402, Japan
e Department of Ophthalmology, Graduate School of Medical Sciences, Kyushu University, Fukuoka, Japan
f Department of Public Health, Fujita Health University School of Medicine, Toyoake 470-1192, Japan
g Department of Pathology and Biological Responses, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, 466-8550, Japan
h Department of Immunoparasitology, Research Institute for Microbial Diseases, Osaka University, Suita, Osaka, Japan
i Department of Biofunctional Evaluation, Molecular Pharmacology, Gifu Pharmaceutical University, Gifu, 501-1196, Japan
j Center for Low-Temperature Plasma Sciences, Nagoya University, Furo-Cho, Chikusa-ku, Nagoya 464-8603, Japan
DOI: 10.1016/j.redox.2023.102890
English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Red_231004en.pdf
大学院医学系研究科 兼子 裕規 准教授
https://med-nagoya-ganka.jp/
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