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生物学

2023.11.22

脳内の概日リズムの司令塔は低温で停止し、 再加温により時刻がリセットして再開することを発見 ー長年の謎であった冬眠時の概日リズムのメカニズムの理解に貢献ー

自然科学研究機構 生命創成探究センター (ExCELLS) / 生理学研究所の榎木亮介准教授、根本知己教授らの研究グループは、名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)の金尚宏特任講師、北海道大学低温科学研究所の山口良文教授らとの共同研究で、脳にある約24時間リズム(概日リズム)の司令塔である神経細胞の集団は、低温にさらされるとリズムを刻むのを停止し、再び温めると時刻がリセットしてリズムを再開することを見いだしました。またこのリズムの停止と再開のしくみには、細胞内にあるカルシウムイオンが重要であることも分かりました。 

 私たちの身体を構成する細胞や臓器は約24時間のリズム持っており、心と体の健康に重要です。その24時間のリズムを制御しているのは、概日リズム中枢と呼ばれる脳の深部の視交叉上核(しこうさじょうかく)という部分の神経細胞の集団の活動であることが知られています。今回、その概日リズム中枢が時を刻む様子を、温度を変えながら長期間に渡ってリアルタイムに観察することに成功しました。この研究結果は、哺乳類の冬眠に見られるような極端な低体温の状態ではリズムは停止すること、冬眠が終了すると時刻がリセットされてリズムが再開することを示唆しています。この発見は、長年の謎である冬眠のメカニズムの理解に貢献するものと期待されます。

本研究成果は、国際科学雑誌 「iScience」 (2023年11月3日付) に掲載されました。

 

【ポイント】

  1. 哺乳類の概日リズム中枢の神経細胞は、15℃付近の低温ではリズムが停止し、35℃付近の温度に戻すと時刻がリセットして再開することを発見。
  2. 概日リズムの停止とリセットの仕組みには、細胞内のカルシウムイオンが重要であることが明らかに。
  3. 哺乳類の冬眠のような極端な低体温では概日リズムは停止し、冬眠が終了した後には新たな時刻から再開することを示唆。
  4. 研究結果は、長年謎であった哺乳類の冬眠時の概日リズムのメカニズムに関する基礎科学的な価値を持つものであり、冬眠という不思議な生命現象の全容解明への重要な一歩であると期待。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【論文情報】

雑誌名: iScience

論文名: Cold-induced Suspension and Resetting of Ca2+ and Transcriptional Rhythms in the Suprachiasmatic Nucleus Neurons

著者: 榎木亮介*, 金尚宏, 清水貴美子, 小林憲太, 廣蒼太, 張菁圃, 中根達人, 石井宏和, 坂本丞, 山口良文, 根本知己 (*責任著者)

DOI: https://doi.org/10.1016/j.isci.2023.108390

掲載URL: https://www.cell.com/iscience/fulltext/S2589-0042(23)02467-7

 

【研究代表者】

トランスフォーマティブ生命分子研究所( ITbM) 金 尚宏 特任講師

https://www.agr.nagoya-u.ac.jp/~aphysiol/