TOP   >   生物学   >   記事詳細

生物学

2023.12.19

1年のリズムを刻む概年遺伝子を発見 繁殖や渡り、冬眠などのタイミングをはかる体内時計の謎に迫る

生物のからだの中には、概ね(おおむね)1年のリズムを刻む「概年時計」と呼ばれる体内時計が存在し、繁殖活動や渡り、冬眠などのタイミングを制御していますが、その仕組みはいかなる生物においても謎に包まれていました。
国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)及び大学院生命農学研究科の吉村_崇 教授、中山 友哉 特任助教(名古屋大学高等研究院 YLC教員)、谷川 未来 博士後期課程学生、大串 幸 博士前期課程学生らの研究グループは、大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 基礎生物学研究所/生命創成探究センターの青木 一洋 教授らとの共同研究により、メダカに概年時計が存在することを示しました。また数年間にわたるトランスクリプトーム解析注2)の結果、1年のリズムを刻む「概年遺伝子」を同定することに成功し、脳内での細胞分裂、細胞分化が1年という長期的な「時」を刻むのに重要である可能性を示しました
本研究成果は、2023年12月19日午前5時(日本時間)にアメリカの科学雑誌「米国科学アカデミー紀要」のオンライン版に掲載されました。

 

【ポイント】

・ 生物の体内には約1年の内因性のリズムを刻む「概年(がいねん)時計注1)」が存在するが、その仕組みはあらゆる生物において未解明である。
・ 季節変化のない実験室内の恒常条件下で、メダカに概年時計が存在することを明らかにし、1年のリズムを刻む「概年遺伝子」を世界で初めて同定した。
・ 概年遺伝子の機能から、脳内での細胞分裂、細胞分化が1年という長い周期のリズムを駆動するのに重要であることが示唆された。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)概年(がいねん)時計:
環境の季節変化がない実験室内の恒常条件下でも観察される概ね(おおむね)1年の内因性のリズムを刻む体内時計。自然条件下では環境の季節変化に同調している。概年時計は毎年繰り返される季節の中で、繁殖活動、冬眠、渡りなどを適切なタイミングで行うのに役立っている。
注2)トランスクリプトーム解析:
組織や細胞内におけるすべての遺伝子転写産物(RNA)を網羅的に解析する研究方法。

 

【論文情報】

雑誌名: Proceedings of the National Academy of Sciences, USA (米国科学アカデミー紀要) オンライン版
論文タイトル:A transcriptional program underlying the circannual rhythms of gonadal development in medaka(メダカの生殖腺発達の概年リズムを支える転写プログラム)
著者: Tomoya Nakayama1, Miki Tanikawa1, Yuki Okushi1, Thoma Itoh2, Tsuyoshi Shimmura1, Michiyo Maruyama1, Taiki Yamaguchi1, Akiko Matsumiya1, Ai Shinomiya2, Ying-Jey Guh1, Junfeng Chen1, Kiyoshi Naruse, Hiroshi Kudoh, Yohei Kondo2, Honda Naoki, Kazuhiro Aoki2, Atsushi J. Nagano, and Takashi Yoshimura1(中山 友哉1、谷川 未来1、大串 幸1、伊藤 冬馬2、新村 毅1、丸山 迪代1、山口 大輝1、松宮 晃子1、四宮 愛2、顧 穎傑1、陳 君鳳1、成瀬 清、工藤 洋、近藤 洋平2、本田 直樹、青木 一洋2、永野 惇、吉村 崇1
1:名古屋大学 2:基礎生物学研究所/生命創成探究センター
DOI: 10.1073/pnas.2313514120
URL: https://doi.org/10.1073/pnas.2313514120

 

※【WPI-ITbMについて】(http://www.itbm.nagoya-u.ac.jp)
名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)は、2012年に文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の1つとして採択されました。
ITbMでは、精緻にデザインされた機能をもつ分子(化合物)を用いて、これまで明らかにされていなかった生命機能の解明を目指すと共に、化学者と生物学者が隣り合わせになって融合研究を行うミックス・ラボ、ミックス・オフィスで化学と生物学の融合領域研究を展開しています。「ミックス」をキーワードに、人々の思考、生活、行動を劇的に変えるトランスフォーマティブ分子の発見と開発を行い、社会が直面する環境問題、食料問題、医療技術の発展といったさまざまな課題に取り組んでいます。これまで10年間の取り組みが高く評価され、世界トップレベルの極めて高い研究水準と優れた研究環境にある研究拠点「WPIアカデミー」のメンバーに認定されました。

 

【研究代表者】

トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)/大学院生命農学研究科 吉村 崇 教授
http://www.agr.nagoya-u.ac.jp/~aphysiol/