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医歯薬学

2023.12.05

フェロトーシスを誘発するプラズマ活性化乳酸リンゲル液が口腔癌に対して有効であることを発見

国立大学法人東海国立大学機構名古屋大学大学院医学系研究科顎顔面外科学の佐藤 康太郎(さとう こうたろう)助教、日比 英晴(ひび ひではる)教授らの研究グループは同大学院医学系研究科生体反応病理学の豊國 伸哉(とよくに しんや)教授、神戸大学大学院医学系研究科文士細胞生物学の鈴木 聡(すずき あきら)教授らの研究グループとの共同研究により、プラズマ活性化乳酸リンゲル液(PAL)が鉄依存性細胞死であるフェロトーシスを引き起こし、口腔癌の進行を抑制することを見出しました。まず、細胞実験では PAL 投与により、口腔癌細胞では正常細胞と比較して低濃度で殺細胞効果を示し、フェロトーシスが起こっていることを確認しました。同時に、コラーゲン同士を結合させる役割を担っているコラーゲンクロスリンクの形成に重要な Lysyl oxidase (LOX)の有意な発現低下もみられました。動物実験では PAL 投与により発癌が抑制され、副作用はみられず、生存率は有意に延長しました。組織学的に LOX の発現低下およびコラーゲンの形成抑制がみられ、フェロトーシスが引き起こされていることを確認しました。以上より、PAL は口腔癌細胞に対してフェロトーシスを引き起こし、さらにコラーゲンの形成を抑制することで有効性を発揮する可能性が示唆されました。本研究により、口腔癌に対する新規治療法開発の基盤となることが期待されます。
本研究結果は、科学誌「Oral Diseases」(電子版)に 2023 年 12 月 4 日に掲載されました。

 

【ポイント】

・プラズマ活性化乳酸リンゲル液(PAL)(*1)投与により、口腔癌細胞では正常細胞と比較して低濃度で殺細胞効果を示し、鉄依存性細胞死であるフェロトーシス(*2)が起こっていることを確認しました。また、コラーゲンクロスリンク(*3)の形成に重要な Lysyl oxidase (LOX)(*4)の有意な発現低下がみられました。
・口腔癌モデルマウスを使用し、PAL を投与することで口腔癌の発癌が抑制され、副作用も見られず、生存率は有意に延長しました。LOX の発現低下およびコラーゲンの形成抑制がみられ、さらにフェロトーシスが引き起こされていることを確認しました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

*1 PAL(Plasma-activated Ringer’s lactate solution:プラズマ活性化乳酸リンゲル液)
低温プラズマを点滴として使用される乳酸リンゲル液に照射してできた溶液である。

 

*2 Ferroptosis(フェロトーシス)
鉄依存性の細胞死である。2012 年に Dixon らにより報告され、脂質過酸化を特徴とし既存の細胞死とは異なるメカニズムを持つ細胞死である。

 

*3 コラーゲンクロスリンク
コラーゲン分子同士の結びつきのことである。

 

*4 LOX(Lysyl oxidase)
コラーゲンクロスリンクを増加させる作用があり、腫瘍ならびに周囲環境を硬くすることで腫瘍が増殖および浸潤しやすい環境に変化させるといわれている。

 

【論文情報】

雑誌名:Oral Diseases
論文タイトル:Ferroptosis induced by plasma-activated Ringer’s lactate solution prevents oral cancer progression
著者名・所属名:
Kotaro Sato1,2, Ming Yang1,2, Kae Nakamura3, Hiromasa Tanaka3, Masaru Hori3, Miki Nishio4, Akira Suzuki4, Hideharu Hibi1,3, Shinya Toyokuni2,3


1 Department of Oral and Maxillofacial Surgery, Nagoya University Graduate School of Medicine, 65 Tsurumai-cho, Showa-ku, Nagoya 466-8550, Japan
2 Department of Pathology and Biological Responses, Nagoya University Graduate School of Medicine, 65 Tsurumai-cho, Showa-ku, Nagoya 466-8550, Japan
3 Center for Low-Temperature Plasma Sciences, Nagoya University, Furo-cho, Chikusa-ku, Nagoya 464-8603, Japan
4 Division of Molecular and Cellular Biology, Kobe University Graduate School of Medicine, 7-5-1 Kusunoki-cho, Chuo-ku, Kobe 650-0017, Japan

 

DOI: 10.1111/odi.14827
URL: https://doi.org/10.1111/odi.14827

 

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Ora_231205en.pdf

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 佐藤 康太郎 助教
https://zzzgundam2008.wixsite.com/nu-oandm-surgery