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化学

2023.12.20

真空蒸着が可能なフラーレン誘導体を用いた高耐久性ペロブスカイト太陽電池 ~次世代太陽電池の実用化へ前進~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院工学研究科および未来社会創造機構マテリアルイノベーション研究所の松尾 豊 教授らの研究グループは、真空蒸着プロセスに使用でき、形態的に安定な蒸着膜を与えるフラーレンの誘導体を開発しました。これを電子輸送層に用い、耐久性が高いペロブスカイト太陽電池を作製しました
このフラーレン誘導体の薄膜は、真空蒸着直後も150℃に加熱した後もアモルファス注5)薄膜であり、加熱により薄膜の形態が変化しませんでした。このような形態安定性はペロブスカイト太陽電池の耐久性向上に寄与しました。通常のフラーレン(C60)を用いたペロブスカイト太陽電池ではC60の結晶化のために薄膜形態が変化し、作製直後から性能が低下しましたが、今回作製した、フラーレン誘導体を用いたペロブスカイト太陽電池では、このような特性低下はみられませんでした。
ペロブスカイト太陽電池は現在主流の太陽電池に比べて低コスト化・軽量化が見込まれ、次世代の太陽電池として期待されています。今回の研究成果は、普及における最大の課題であった耐久性の向上を実現したことで、実用化へ貢献することが期待されます。また、形態的安定な真空蒸着膜を与えるフラーレン誘導体は、高い熱安定性、耐光性をもち、塗布プロセスにも蒸着プロセスにも使用できる扱いやすいn型有機半導体注6)であり、有機薄膜太陽電池や有機光ダイオードなどの光電変換素子注7)の発展にも寄与することが期待されます。
本研究成果は、2023年12月8日付アメリカ化学会誌『Journal of the American Chemical Society』のオンライン速報版に掲載されました。

 

【ポイント】

・次世代太陽電池として注目されるペロブスカイト太陽電池注1)の、実用化に向けた最大の課題は耐久性向上である。
・真空蒸着注2)が可能で、形態的に安定な薄膜を与えるフラーレン誘導体注3)を開発した。
・電子輸送層注4)として用いることにより、ペロブスカイト太陽電池の耐久性を向上させた。
・有機光ダイオード等、有機エレクトロニクスの発展への貢献も期待される。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)ペロブスカイト太陽電池:
ペロブスカイト構造とよばれる結晶構造を持つ物質を用いて作られた太陽電池。従来のシリコン太陽電池よりも軽量で柔軟性があり、再生可能エネルギー分野における次世代太陽電池に位置づけられている。
注2)真空蒸着:
物質を真空中で加熱して蒸発させ、その蒸気を被覆対象の表面に堆積させて物質の薄膜を作製する方法。
注3)フラーレン誘導体:
フラーレン(C60)に有機分子を取り付けた化合物をフラーレン誘導体という。フラーレンの性能向上のために、有機合成により有機物が取り付けられる。
注4)電子輸送層:
太陽電池の発電層において生成した電子と正孔のうち、電子のみを捕集し電極に渡す層。電子輸送層の中では電子のみが輸送される。
注5)アモルファス:
物質が結晶構造を持たず、定期的なパターンや結晶性が欠如している状態を指す。結晶性がないため、原子や分子はランダムに配置されており、特定の長距離秩序が形成されていない。このような状態の物質は、結晶性を持つ物質とは異なる物理的特性を示すことがある。
注6)n型有機半導体:
半導体として振る舞う有機物のうち、電子を受け取り、電子を輸送する材料。負の電荷をもつ電子のみを流し、正の電荷をもつ正孔(ホール)は流さない。このような電荷の選択性をもつ材料は、太陽電池のような電子デバイスを構築するにあたり必須となっている。太陽電池の発電層が光を吸収して電子と正孔が生じ、n型有機半導体は電子のみを選択的に受け取り、流すことができる。
注7)光電変換素子:
光を電気信号に変換させる素子。フラーレン誘導体などの有機半導体を用いて作製される有機光電変換素子は、デジタルカメラの高解像度化、スマートフォンの全画面指紋認証などに応用されることが期待されている。

 

【論文情報】

雑誌名:Journal of the American Chemical Society
論文タイトル:Evaporable Fullerene Indanones with Controlled Amorphous Morphology as Electron Transport Layers for Inverted Perovskite Solar Cells
著者:Qing-Jun Shui, Shiqi Shan, Yong-Chang Zhai, 青柳 忍, 伊澤誠一郎, Miftakhul Huda, Chu-Yang Yu, Lijian Zuo, Hongzheng Chen*, Hao-Sheng Lin*, 松尾 豊*
(*は責任著者、下線は本学関係者)
DOI: 10.1021/jacs.3c07192
URL: https://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/jacs.3c07192

 

【研究代表者】

大学院工学研究科 松尾 豊 教授

http://www.matsuo-lab.net