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工学

2024.01.05

プラズマ照射で農薬を使用せず栽培溶液を"その場殺菌" ~低環境負荷技術を通じた食料安全保障への貢献に期待~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院工学研究科の岩田 直幸 博士、 同低温プラズマ科学研究センターの堀 勝 特任教授、田中 宏昌 教授、石川 健治 教授らの研究グループは、名城大学プラズマバイオ応用研究センターの伊藤 昌文教授、加藤 雅士 教授、志水 元亨 准教授、西川 泰弘 准教授らとの共同研究で、低温プラズマで生成した酸素ラジカルを、トリプトファンを含む栽培溶液に照射することで、生成したトリプトファン・ラジカルが大腸菌内の酵素不活性化や代謝異常を誘導する、という“その場殺菌”技術の開発に成功しました。本共同研究グループは、世界に先駆けて、殺菌剤を使わずに電気エネルギーから生成する低温プラズマによる殺菌技術を実現してきました。今回、その技術をさらに発展させ、最新水耕栽培における溶液の衛生管理技術として有望である酸素ラジカルによる殺菌技術の開発に成功しました。
本研究では、SDGsやみどりの食料システム戦略注3)の下で化学農薬が削減・制限される作物生産においても、自然エネルギーから得られた電気エネルギーを元に窒素と酸素、水蒸気を含む大気を低温プラズマ化するだけで、殺菌に利用することができる革新的な技術を実現しました。この技術は、カーボンニュートラルに掲げられる脱化石燃料、温室効果ガス低減の目標に向けた技術開発に貢献することが期待されます。
本研究成果は、2023年12月21日付国際科学雑誌「Environmental Technology & Innovation」に掲載されました。

 

【ポイント】

・低温プラズマで生成した酸素ラジカル注1)を栽培溶液に照射し、農薬を使用せず栽培中に殺菌処理できる“その場殺菌”技術を開発。
・栽培溶液中のアミノ酸のトリプトファン注2)をラジカル化し、大腸菌の代謝異常を誘導できる。
・水耕栽培の溶液処理システムにおける衛生管理の基盤技術として有望である。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)酸素ラジカル:
分子が共有する電子対が解離して不対電子もつ酸素原子のこと。ここでは低温プラズマで生成させた高速電子を衝突させることで酸素分子が解離して生成する。
注2)トリプトファン:
芳香族アミノ酸の一種であり、化学式C11H12N2O2であり、ピロール環(四個の炭素と一個の窒素が頂点をもつ五角形を形作る)とベンゼン環(六個の炭素が六角形を形作る)が縮合したインドール環を側鎖にもつ。
注3)みどりの食料システム戦略:
我が国の農林水産省が2021年に策定した食料生産の方針のこと。中長期的な観点から、我が国の食料・農林水産業を生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現することを推進し、数値目標に2050年までに「化学農薬の使用量を50%低減」、「輸入原料や化石燃料を原料とした化学肥料の使用量を30%低減」を達成することなどが掲げられる。

 

【論文情報】

雑誌名: Environmental Technology & Innovation (Elsevier社 学術雑誌)
論文タイトル: Oxygen radical irradiation transforms an organic fertilizer l-tryptophan into an environment and human-friendly bactericide
著者: Naoyuki Iwata, Kenji Ishikawa, Hiromasa Tanaka, Masaru Hori (名古屋大学)
Yasuhiro Nishikawa, (名城大学 薬学部)
Hiroyuki Kato, Motoyuki Shimizu, Masashi Kato, (名城大学 農学部)
Masafumi Ito (名城大学 理工学部)
DOI: 10.1016/j.eti.2023.103496
URL: https://doi.org/10.1016/j.eti.2023.103496

 

【研究代表者】

東海国立大学機構 名古屋大学 低温プラズマ科学研究センター
兼) 同 大学院工学研究科 電子工学専攻
石川 健治 教授

http://horilab.nuee.nagoya-u.ac.jp

 

【関連情報】

インタビュー記事「プラズマ×農業=スーパー作物を作りたいわけではありません」(名大研究フロントライン)