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生物学

2024.04.12

活性酸素種はタンパク質の酸化によって植物の免疫を制御する ~耐病性作物の育種やバイオスティミュラントの開発への応用に期待~

名古屋大学大学院生命農学研究科の吉岡 博文 准教授らの研究グループは、活性酸素によるタンパク質の酸化が植物免疫の制御に関わることを明らかにしました。
活性酸素の生産は植物が病原体の攻撃によって誘導する免疫応答の一つです。これまでに、活性酸素の生産が起こるメカニズムについては多数の研究がなされてきましたが、生産された活性酸素がどのようにして防御応答を担うか?については知見が乏しいままでした。
本研究では、活性酸素種がタンパク質の酸化 (スルフェニル化) を介したシグナル伝達によって、下流の防御応答を制御するメカニズムの一端を明らかにしました。また、細胞膜上で活性酸素を生産する酵素であるRBOH注4)がタンパク質の酸化に大きく貢献することを明らかにしました。
本研究成果により解明された、活性酸素種が酸化するタンパク質をターゲットとした耐病性作物の育種やバイオスティミュラントの開発への応用が期待されます
本研究成果は、2024年4月5日付国際学術雑誌「Journal of Experimental Botany」にオンライン掲載されました。

 

【ポイント】

・植物が病原菌による攻撃を受けると、免疫応答として活性酸素種注1)を急激に生産する。しかし、発生した活性酸素がどのような役割を果たすかは知られていなかった。
・本研究により、活性酸素種は植物の様々なタンパク質を酸化 (スルフェニル化注2)) することで、免疫応答の制御に関与することが示された。
・活性酸素種による酸化のターゲットに着目した耐病性育種やバイオスティミュラント注3)開発の分子基盤確立が期待される。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)活性酸素種:
酸素分子 (O2) に由来する反応性が高い分子の総称。主な活性酸素種として、一重項酸素、スーパーオキシド、過酸化水素、ヒドロキシラジカルが挙げられる。
注2)スルフェニル化:
活性酸素種の一種である過酸化水素による酸化反応。タンパク質のシステイン残基の側鎖であるチオール基をスルフェン酸へと酸化する。非常に不安定な分子であり速やかにより安定な酸化状態に変化する。
注3)バイオスティミュラント:
植物やその周辺環境が本来持つ力を活用することで、ストレス耐性や収量などに良い影響を与える資材。
注4)RBOH (respiratory burst oxidase homolog):
植物の細胞膜上に存在するタンパク質で、活性酸素種の生産を担う。酸素分子からスーパーオキシドを生産する。一般的にはNADPH oxidaseと呼ばれるが、植物ではRBOHと名付けられている。

 

【論文情報】

雑誌名:Journal of Experimental Botany
論文タイトル:NADPH oxidase-mediated sulfenylation of cysteine derivatives regulates plant immunity
著者:Yuta Hino, Taichi Inada, Miki Yoshioka, Hirofumi Yoshioka        
DOI: 10.1093/jxb/erae111 
URL: https://doi.org/10.1093/jxb/erae111            

 

【研究代表者】

大学院生命農学研究科 吉岡 博文 准教授
https://www.agr.nagoya-u.ac.jp/%7ebio4283/index.html