名古屋大学大学院工学研究科の西川原 理仁 准教授らの研究グループは、宇宙航空研究開発機構(JAXA) 研究開発部門第二研究ユニットの宮北 健 主任研究開発員と豊橋技術科学大学大学院工学研究科の瀬下 玄輝 博士前期課程学生、横山 博史 教授、柳田 秀記 名誉教授との共同研究で、月面ローバが2週間の寒い夜を超えるためのヒートスイッチデバイスを新たに開発しました。
近年、国際的な開発競争が激しくなっていている月探査の中で、月面ローバによる探索活動は、人類の活動領域の拡大など持続的な月探査の中心的役割と位置づけられ、非常に重要な役割を担っています。
月は2週間ごとに昼と夜が入れ替わり、月面ローバは昼の太陽が当たる時は100℃、夜の陰になる時は-190℃と、大きな温度差の環境の下で活動することが求められます。そのため、月面ローバに搭載される電子機器を適切な温度に維持するために昼は放熱し、夜は保温するヒートスイッチ技術が必要です。さらに月面ローバは使用可能なエネルギーが限られるため、省エネルギーでの動作も同時に求められます。
本研究では、低消費電力で冷媒の流動を制御可能な電気流体力学ポンプを新たに開発し、無電力で高効率な放熱ができるループヒートパイプ注3)と組み合わせることで、昼は無電力で放熱し、夜は低消費電力で極寒環境との断熱ができる熱制御デバイスを開発し、実験室環境での実証に成功しました。本技術によって極寒の夜を耐えることができる月面ローバによる長期的な月探査活動の実現が期待されます。
本研究成果は、2024年5月17日付エルゼビアのジャーナル「Applied Thermal Engineering」に掲載されました。
・月面ローバ注1)の新しい熱制御技術を開発
・月探査の越夜のためのヒートスイッチ技術を開発
・電気流体力学注2)ポンプによるmW(ミリワット)級の超低消費電力な方法によってヒートスイッチ機能を実験室にて実証
◆詳細(プレスリリース本文)はこちら
注1)月面ローバ:
月表面を、探査することができる探査車。月面の地質・資源の調査などを広い範囲で行うことができる。
注2)電気流体力学(EHD):
絶縁性液体に高い電圧を印加すると流動が起きる現象。電極を流路に配置するだけでポンプができる。詳しくはこちら。
http://kitnetblog.kitnet.jp/koizumi/2011/03/post-45.html
注3)ループヒートパイプ(LHP):
多孔体内で生じる毛細管力を駆動力とし、電力を用いずに小さな温度差で熱を長距離輸送できる熱輸送デバイス。詳しくはこちら。
https://www.jsme.or.jp/ted/NL70/TED-Plaza_Nagano.htm
雑誌名:Applied Thermal Engineering
論文タイトル:Demonstration of heat switch function of loop heat pipe controlled by electrohydrodynamic conduction pump
著者: Masahito Nishikawara(NU), Takeshi Miyakita(JAXA), Genki Seshimo(TUT), Hiroshi Yokoyama(TUT), Hideki Yanada(TUT)
DOI: 10.1016/j.applthermaleng.2024.123428
URL: https://doi.org/10.1016/j.applthermaleng.2024.123428
大学院工学研究科 西川原 理仁 准教授
https://navier.energy.nagoya-u.ac.jp/index.html