東京大学大学院総合文化研究科の水野 英如 助教、池田 昌司 准教授、名古屋大学大学院理学研究科の川﨑 猛史 講師、宮崎 州正 教授は、ガラス形成液体(注1)の非ニュートンレオロジー(注2)を記述するモード結合理論(注3)に指摘されてきた、20年来の観測との不整合を解決し、流動メカニズムの理論的な理解を確立することに成功しました。
例えば身近な流体である水は、粘性率が流れの速さに依らずに一定となるニュートンレオロジーを示します。ところが、融点以下の過冷却状態に冷却すると、顕著な非ニュートンレオロジーが現れます。過冷却状態にあるガラス形成液体は粘性率が極めて大きいネバネバな流体ですが、流れが速くなると、粘性率が急激に減少していきサラサラな流体に変貌します。
このシアシニングと呼ばれる非ニュートンレオロジーを説明するために、約20年前にモード結合理論と呼ばれる理論が構築されました。本理論は微視的な立場から現象を説明する、第一原理理論として大きな注目を集めてきました。ところが、実験や計算機シミュレーションによる観測結果と深刻な不整合があり、理論が提唱する移流のメカニズムがそもそも間違っている可能性さえも指摘されていました。
◆融点以下のガラス形成液体が流れる振る舞いには理論と観測に深刻な不整合が指摘されてきましたが、20年以上もの長きに渡り未解決なままでした。
◆この問題に対して本研究は、従来の理論が提唱してきた移流のメカニズムとは全く別の歪みのメカニズムを理論に組み込むことによって、不整合を解決することに成功しました。
◆本研究によって、実験結果を定量的に説明できる理論が完成しました。本理論の完成は、ガラス材料の生産加工技術などの応用面に資するものと期待できます。
◆詳細(プレスリリース本文)はこちら
(注1)ガラス形成液体
液体を融点以下に冷やすと、粘性率が極めて大きいネバネバな状態になる。この状態を過冷却状態と呼ぶ。過冷却状態の液体をさらに冷却していくと、やがてはガラスへと固まる。このため、過冷却状態にある液体はガラス形成液体と呼ばれる。
(注2)非ニュートンレオロジー
流れの速さに対して粘性率が一定である流体をニュートン流体と呼び、その流れをニュートンレオロジーと呼ぶ。これに対して、流れの速さに応じて粘性率が大きく変化する流体を非ニュートン流体、その流れを非ニュートンレオロジーと呼ぶ。非ニュートンレオロジーの代表例として、流れが速くなると粘性率が増加するシアシックニング、逆に粘性率が減少するシアシニングが挙げられる。
(注3)モード結合理論
モード結合理論は、流体を構成する原子・分子の運動に基づき、微視的な立場から第一原理的に流体の巨視的な振る舞いを説明しようとする理論である。元々は過冷却状態にあるガラス形成液体の極めて大きな粘性率の発生メカニズムを説明する理論として構築された。その後、ガラス形成液体の非ニュートンレオロジーを説明する理論へと拡張された。
雑誌名:Communications Physics(オンライン版:7月1日)
題 名:Universal mechanism of shear thinning in supercooled liquids
著者名:Hideyuki Mizuno*, Atsushi Ikeda, Takeshi Kawasaki, Kunimasa Miyazaki
DOI:10.1038/s42005-024-01685-8