名古屋大学大学院医学系研究科皮膚科学分野の吉川 剛典(よしかわ たけのり)病院助教、秋山 真志(あきやま まさし) 教授、武市 拓也(たけいち たくや) 准教授らの研究グループは、世界で初めて毛孔性紅色粃糠疹のモデルマウス(*1)を作製し、発症メカニズムに関する新たな知見を報告しました。
毛孔性紅色粃糠疹 (pityriasis rubra pilaris: PRP)は、全身の角化性紅斑(*2)を特徴とし、発症時期などから 6 つの型に分類されます。その中で、5 型は幼少期から生涯にわたり、全身の角化性紅斑、多量の鱗屑(皮膚表面の角層細胞が剥がれ落ちたもの)、激しいかゆみ、痛みなどに悩まされます。近年、CARD14 (*3)という遺伝子の変化が原因と判明しましたが、未だ不明な点が多い疾患です。
本研究グループは、CARD14 変異をマウスに導入し、世界で初めて PRP 5 型のモデルマウスを作製しました。このマウスの皮膚の遺伝子発現を調べたところ、IL-17 と IL-36 という炎症に関わるタンパクが本症の病態に深く関わっていることがわかりました。また、細胞 1つ 1 つの遺伝子発現を調べられるシングルセル解析(*4)で、病態に特に重要な細胞集団を特定しました。さらに、毛穴の特定の細胞では IL-17 の信号を受け取るタンパクや、過剰な角化(*5)に関与する遺伝子の発現が亢進しており、PRP の特徴である毛穴の角化への関与が示唆されました。 IL-17 を抑える治療薬を投与したところ、モデルマウスの症状は著明に改善しました。
本研究をもとに、さらなる病態解明や治療法の開発が進むことが期待されます。
本研究成果は、2024 年 8 月 17 日に米国の医学雑誌『Journal of Investigative Dermatology』にて、オンラインで公開されました。
・世界で初めて毛孔性紅色粃糠疹(PRP)のモデルマウスを作製し、解析をしました。
・解析の結果、PRP 発症に特に重要な、炎症に関わるタンパクが IL-17 と IL-36 とわかりました。
・シングルセル解析を用いて、PRP 発症に特に重要な細胞を特定しました。
・PRP のモデルマウスへの治療実験に成功しました。
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*1)モデルマウス:ヒトの疾患に類似した症状を再現するマウスのことです。
*2)角化性紅斑:皮膚の最外層である角層が異常に厚くなり、ガサガサし、赤くなった皮膚を角化性紅斑と呼びます。
*3)CARD14:皮膚の炎症に深く関わる遺伝子です。炎症を過剰に引き起こしてしまうタイプの遺伝子異常の存在が知られています。
*4)シングルセル解析:臓器は細胞同士が強固に結合しています。それを、試薬などで結合を解いて細胞をバラバラにし、細胞一つ一つ個別に遺伝子解析をする手法がシングルセル解析です。
*5)角化:皮膚は体表側から表皮、真皮、皮下組織で主に構成されます。角化細胞は表皮の大部分を構成している細胞です。通常、角化細胞は、表皮の最下層の基底細胞層から、分化・成熟しながら、徐々に上層(より体表側の層)に移動し、順に、有棘細胞層、顆粒細胞層、角層といった層を作ります。この過程を角化と呼びます(最後に角層は垢となって剥がれ落ちます)。この過程に異常があると、*2)のような角化性紅斑が生じます。
雑誌名:Journal of Investigative Dermatology
論文タイトル:“Hyperactivation of the IL -17 axis and IL -36 signaling in CARD1 4 -mutant pityriasis rubra pilaris model mice
著者名・所属名: Takenori Yoshikawa 1, Takuya Takeichi 1, Tetsuya Hirabayashi 2, Yoshinao Muro 1, Yuki Miyasaka 3, Tamio Ohno 3 and Masashi Akiyama 1
1 Department of Dermatology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
2 Biomembrane Group, Technology Research Division, Center for Basic Technology Research, Tokyo Metropolitan Institute of Medical Science, Tokyo, Japan
3 Division of Experimental Animals, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Jou_240930en.pdf