名古屋大学大学院工学研究科の平井 大悟郎 准教授、植松 直斗 博士前期課程学生、村松 佑都 前期課程学生、竹中 康司 教授、同大学院理学研究科の出口 和彦 講師、広島大学大学院先進理工系科学研究科の志村 恭通 准教授、鬼丸 孝博 教授らの研究グループは、化学組成を系統的に変えたハイエントロピー化合物(RuRhPdIr)1-xPtxSbを合成し、この物質の示す超伝導の転移温度が関連物質の最高値の1.5倍に上昇し、磁場に対する耐性が10倍近く増強することを発見しました。
ハイエントロピー物質は、5種類以上の元素をほぼ等量混ぜ合わせることで、普通は混じり合わない物質を単一の物質として安定化させた物質です。この物質群では、優れた機械的特性や触媒性能を示すため、高機能性材料として注目を集めています。
本研究で合成したハイエントロピー化合物は、化学組成に依存して超伝導特性が変化し、構成元素が等量ずつ含まれる組成の付近で、転移温度の上昇と磁場耐性の増強が観測されました。本研究の成果から、多種の元素を組み合わせるハイエントロピー化が、実用の際に重要になる高い転移温度や磁場に対する高い耐性の実現に有効であることが明らかになりました。
本研究成果は、2024年9月17日付米国化学会雑誌『Chemistry of Materials』に掲載されました。
・化学組成を変えたハイエントロピー化合物注1)を合成し、超伝導注2)の特性を調べた。
・合成したハイエントロピー化合物において超伝導への転移温度は関連物質の最高値の1.5倍に上昇し、磁場に対する耐性も10倍近く増強した。
・高い磁場耐性はハイエントロピー化合物の超伝導体に共通する特徴であり、多種の元素を組み合わせるハイエントロピー化によって、強力な磁石に用いられる新たな超伝導体の開発が期待される。
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注1)ハイエントロピー化合物(物質):
5種類以上の元素が等量に近い割合(5~35%)で固溶した物質。5種類以上の金属からなるハイエントロピー合金の研究からはじまり、近年ではハイエントロピー酸化物などの陰イオンを含む物質群にも広がっている。元素が固溶する際の配置のエントロピーが、物質の安定性を決定する要因になっていると考えられている。
注2)超伝導:
物質を冷却した時、ある温度(超伝導転移温度)以下で電気抵抗がゼロとなる場合がある。この現象を超伝導転移と呼び、超伝導転移を示す物質を超伝導体という。
雑誌名:Chemistry of Materials
論文タイトル:Increased superconducting transition temperature and upper critical field of a high-entropy antimonide superconductor (RuRhPdIr)1-xPtxSb
著者:平井大悟郎(名大工),植松直斗(名大工),村松佑都(名大工), 出口和彦(名大理), 志村恭通(広大先進理工), 鬼丸孝博(広大先進理工), 竹中康司(名大工)
DOI: 10.1021/acs.chemmater.4c01423
URL: https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.chemmater.4c01423