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医歯薬学

2025.02.10

手術後気管再挿管患者の特徴を同定し、早期看護ケアへ 日本のICU患者1万人を超えるビッグデータを解析

名古屋大学大学院医学系研究科 実社会情報健康医療学の正木 宏享 博士後期課程学生(同大学医学部附属病院看護部 看護師)、中杤 昌弘 准教授、同大学医学部附属病院の麻酔科 鈴木 章悟 講師らの研究グループは、日本ICU患者データベース(JIPAD) の患者データ約13,000名分を用いた日本最大規模の後ろ向き多施設研究を実施し、手術後再挿管の発生率の推定とリスクマーカーの探索を行いました。その結果、手術後再挿管の発生率は6.3%であり、体格指数(BMI)や動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)、ビリルビン値(Bil)、尿素窒素値(BUN)、免疫抑制状態が手術後再挿管と関連していることを発見しました。特に、低BMIは手術後再挿管と強く関連していました。
これまでに本テーマにおいて、日本の医療ビッグデータを用いた研究は行われていませんでした。そこで本研究グループはJIPADを用いることで、日本のICUに入室した患者の特徴を捉えた頑健な結果を得ることができました。本研究の結果によって、手術後に気管挿管が再度必要になる可能性のある患者に対して、ICU入室早期からの重点的な看護ケアが可能になると期待できます
本研究成果は、2025年2月3日付国際雑誌 『Intensive & Critical Care Nursing』に掲載されました。

 

【ポイント】

・手術後再挿管注1)はICU滞在日数延長や死亡率上昇、医療費増大と関連がある。
・日本ICU患者データベース(JIPAD)注2) の患者データ約13,000名分(7年分)を用いた日本最大規模の後ろ向き多施設研究注3)を行った。
・日本のICUにおける手術後再挿管の発生率が6.26%であることを推定。
・ICU入室後早期に入手できる情報からリスクマーカー注4)を探索し、各施設の患者の特徴や治療はそれぞれ類似していると想定し、一般化推定方程式注5)によるロジスティック回帰分析注6)で評価した。
・その結果、体格指数(BMI)や動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)、ビリルビン値(Bil)、尿素窒素値(BUN)、免疫抑制状態が手術後再挿管のリスクマーカーと同定。
・手術後に気管挿管が再度必要になる可能性のある患者に対して、ICU入室早期からの重点的な看護ケアが可能になると期待できる。
 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)手術後再挿管:
全身麻酔手術では人工呼吸器で呼吸を管理する。その際に口から人工気道である気管チューブを挿入する(気管挿管)。このチューブは、手術後に呼吸が安定していることを確認して抜去する(抜管)。しかし、抜管後に手術後呼吸器合併症などの理由で人工呼吸器を用いた呼吸管理を行わなければならない状態となり、再度気管挿管が必要となること。
注2)日本ICU患者データベース(Japanese Intensive care PAtient Database, JIPAD):
日本集中治療医学会が運営する診療データベース。ICUに入室した患者の疾病や重症度、入室の経路、集中治療室における治療内容、そしてその転帰といった医療情報を収集し、各施設間での比較を行うことによって、医療の質の向上および集中治療医学の発展をめざすことを目的としている。条件はあるが、今回のように研究利用も可能。
注3)後ろ向き多施設研究:
研究開始時点から過去にさかのぼり、すでに収集されているデータを用いる研究を後ろ向き研究という。その中でも、複数の施設から収集したデータを用いる研究を後ろ向き多施設研究という。
注4)リスクマーカー:
手術後再挿管などの結果を予測するための指標。ただし、リスクマーカー自体は必ずしも結果を引き起こす原因とは限らない。
注5)一般化推定方程式:
反復測定データを解析するための方法として知られるが、JIPADのようないくつかの類似集団が集まったような階層性のあるデータに対しても応用可能。従属変数(今回の場合は、手術後再挿管の有無)と独立変数(今回の場合は、患者背景や血液検査データ)の階層性を考慮しながらロジスティック回帰分析を行うことができる。
注6)ロジスティック回帰分析:
従属変数(今回の場合は、手術後再挿管の有無)と独立変数(今回の場合は、患者背景や血液検査データ)の関連を評価するために用いられる統計解析手法。

 

【論文情報】

雑誌名:Intensive & Critical Care Nursing
論文タイトル:Risk markers for postoperative reintubation of intensive care unit patients: A retrospective multicentre study of the National Intensive Care Registry
著者:正木 宏享,鈴木 章悟,中山 奈津紀,小林 恵里,藤井 晃子,西脇 公俊,水野 正明,中杤 昌弘* (*は責任著者、著者は全員本学関係者)
DOI: 10.1016/j.iccn.2025.103956
URL: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0964339725000175

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 中杤 昌弘 准教授、主著者名:正木 宏享 博士後期課程学生
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