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医歯薬学

2025.02.19

免疫チェックポイント阻害薬と自然免疫応答を活性化する薬剤との併用におけるがん免疫治療の抵抗性機序を解明 ―今後のがん免疫併用療法の開発への展開を期待―

名古屋大学大学院医学系研究科(名古屋市昭和区、研究科長:木村 宏)微生物・免疫学講座 分子細胞免疫学と国立研究開発法人国立がん研究センター(東京都中央区、理事長:中釜 斉)研究所(所長:間野 博行)腫瘍免疫研究分野を中心とする研究チームは、免疫チェックポイント阻害薬と自然免疫応答注 1 を活性化させる薬剤を併用してがん治療を行う際には、免疫抑制細胞の活性化を防ぐことで、治療抵抗性を克服し、有用性が期待できることを担がんモデルマウスで確認しました。
免疫チェックポイント阻害薬による治療は多くのがん種に対する標準治療として臨床応用されていますが、効果が期待できる患者さんは、がん組織に CD8 陽性 T 細胞(キラーT 細胞)注 2 等が多数存在する患者さんに限定されています。CD8 陽性 T 細胞は、自然免疫応答を刺激する薬剤 OK-432 注 3 などにより活性化する可能性があり、本研究では、免疫チェックポイント阻害薬 PD-1 抗体注 4 と OK-432 の併用によりがんが縮小する結果を得られるどうかを検討しました。
その結果、免疫チェックポイント阻害薬 PD-1 抗体と OK-432 を併用する場合は、免疫抑制細胞の活性化を防ぐ多形核骨髄由来免疫抑制細胞注 5 の阻害剤を用いて 3 剤を併用することにより、治療抵抗性を克服できる可能性が示されました。
本研究は、名古屋大学大学院医学系研究科 微生物・免疫学講座 分子細胞免疫学 西川 博嘉教授(国立研究開発法人国立がん研究センター研究所腫瘍免疫研究分野分野長、京都大学大学院医学研究科附属がん免疫総合研究センターがん免疫多細胞システム制御部門教授を兼務)、名古屋大学大学院医学系研究科 微生物・免疫学講座 分子細胞免疫学 杉山 大介助教(研究当時、現:名古屋市立大学大学院医学研究科 免疫学分野 講師)、同大学大学院医学系研究科 長谷 哲成特任講師、同大学大学院医学系研究科 臓器病態診断学 加留部 謙之輔教授、らの研究チームで実施し、本成果は、米国科学雑誌「Science Translational Medicine 」に日本時間 2025 年 2 月 13 日に掲載されました。

 

【ポイント】

⚫ 自然免疫応答の活性化を促す薬剤は、免疫チェックポイント阻害薬の治療抵抗性の克服に有用である可能性が期待されていますが、臨床応用には至っていません。
⚫ 本研究では、自然免疫応答を活性化する薬剤の 1 つである OK-432 を担がんモデルマウスへ投与する実験によって、多形核骨髄由来免疫抑制細胞ががん組織の内部へ集まり、治療抵抗性を示す機序を明らかにしました。
⚫ さらに、がん免疫療法の治療効果を左右することが分かっている炎症性がん、非炎症性がんを多種類のマウスモデルで再現し、どのタイプのがんで抵抗機序が作動するのかを明らかにし、臨床応用に向けたバイオマーカーの同定につなげました。
⚫ 本研究成果により、がん免疫療法において OK-432 のような自然免疫応答を活性化する薬剤を併用する際には、多形核骨髄由来免疫抑制細胞を除去する薬剤を併せて用いることで治療効果を高められる可能性が示されました。
⚫ 今後、自然免疫応答を活性化する薬剤の最適化法を明らかにし、さらに研究を進めることにより、新規がん免疫併用療法の開発への展開が期待できます。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1 自然免疫応答:病原体などが外部から侵入してきた際にその成分に反応して速やかに排除する応答のこと。
注2 CD8 陽性 T 細胞:樹状細胞などから抗原を提示されて活性化し、IFN-γやグランザイム B などの細胞を傷害する顆粒を発現してがん細胞を直接攻撃・死滅させる。獲得免疫応答の中心的な役割を果たし、キラーT 細胞とも呼ばれる。
注3 OK-432:溶連菌抽出物で、日本国内で承認されている薬剤である。TLR2,4,9 に結合して自然免疫系の細胞を活性化させることができる。
注4 PD-1 阻害剤(抗 PD-1 抗体):T 細胞上の PD-1 分子に結合する抗体で、免疫チェックポイント分子PD-1 の働きを抑制する抗体薬である。
注5 多形核骨髄由来免疫抑制細胞(polymorphonuclear myeloid-derived suppressor cells: PMN-MDSCs):免疫抑制作用を有する多形核細胞系で、癌・慢性炎症・感染症など多くの疾患において免疫応答を制限している細胞のこと。

 

【論文情報】

雑誌名: Science Translational Medicine
タイトル: Coactivation of innate immune suppressive cells induces acquired resistance against combined TLR agonism and PD-1 blockade
著者 : Hitomi Nishinakamura1,†, Sayoko Shinya1,2,†, Takuma Irie1, Shugo. Sakihama3, Takeo Naito1, Keisuke Watanabe1, Daisuke Sugiyama4, Motohiro Tamiya5, Tatsuya Yoshida6, Tetsunari Hase7, Takao Yoshida2, Kennosuke Karube8, Shohei Koyama1,9, and Hiroyoshi Nishikawa1,4,10*

 

所属: 1Division of Cancer Immunology, Research Institute/Exploratory Oncology Research & Clinical. Trial Center (EPOC), National Cancer Center Japan, Tokyo 104-0045/Chiba 277-8577, Japan,
2Discovery and Research, Ono Pharmaceutical Co., Ltd., Osaka, 618-8585, Japan,
3Laboratory of Hemato-Immunology, Graduate School of Health Sciences, University of the Ryukyus, Nishihara, 903-0125, Japan,
4Department of Immunology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya 466-8550, Japan.
5Respiratory Medicine, Osaka International Cancer Institute, Osaka 541-8567, Japan,
6Department of Thoracic Oncology, National Cancer Center Hospital, Tokyo 104-0045, Japan,
7Department of Respiratory Medicine, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya 466-8550, Japan.
8Department of Pathology and Laboratory Medicine, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya 466-8550, Japan.
9Department of Respiratory Medicine and Clinical Immunology, Osaka University Graduate School of Medicine, Suita, 565-0871, Japan
10Division of Cancer Immune Multicellular System Regulation, Center for Cancer Immunotherapy and Immunobiology (CCII), Graduate School of Medicine, Kyoto University, Kyoto 606-8501, Japan.
These authors contributed equally to this study.
DOI: 10.1126/scitranslmed.adk3160
掲載日: 2025 年 2 月 12 日付
URL: https://www.science.org/doi/10.1126/scitranslmed.adk3160

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 西川 博嘉 教授