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工学

2025.03.11

実用化へ大きく前進!革新的な光触媒システムを開発 ~水から水素と酸素を分離生成、逆反応を抑制して高効率化~

名古屋大学大学院工学研究科の王 謙(オウ ケン) 准教授、呉 亜強(ウ ヤジャン) 特任助教、櫻井 拓弥 博士前期課程学生らの研究グループは、信州大学/東京大学の堂免 一成 教授、山東大学の王 朋(オウ ポン) 教授らの研究グループとの共同研究で、高効率かつ実用的な水分解光触媒反応システムを開発しました
太陽光と光触媒を利用した水分解反応は、持続可能なグリーン水素製造技術として大きな期待を集めています。しかし、従来の技術には、光触媒の反応効率の低さ、水素と酸素が混在することによる逆反応、および生成ガスの分離の必要性といった課題があり、実用化の大きな障壁となっていました。
本研究グループは、水素発生セルと酸素発生セルを独立させた設計により、水素と酸素を分離して生成する新たな光触媒システムを開発しました。水素発生用セルにはセレン化モリブデン(MOSe2)をコーティングしたハロゲン化ペロブスカイト(CH(NH2)2PbBr3-xIx)光触媒を、酸素発生セルにはニッケル-鉄層状複水酸化物(NiFe-LDH)をコーティングしたバナジン酸ビスマス(BiVO4)を導入しました。これらのセル間の電子移動を、I3-/ I-電子伝達材注2)を介して促進させることにより、太陽光エネルギー変換効率(STH)2.47%を実現することに成功しました。さらに、このシステムをスケールアップした692.5 cm2の屋外実験システムでは、平均1.21%のSTHを1週間維持することに成功しました。
本研究で開発した光触媒システムは、独自の設計により、水素と酸素を分離生成するだけでなく、逆反応を抑制することで、従来のシステムと比較してSTHを大幅に上昇させることに成功しました。本研究の成果は、光触媒を用いた水素製造技術の発展に新たな指針を示し、今後の大規模な水素生産への応用が期待されます。
本研究成果は、2025年1月24日(日本時間)付Nature Research社発行の国際学術誌『Nature Communications』に掲載されました。

 

【ポイント】

・水素発生セルと酸素発生セルを分離することで、高効率かつ実用的な光触媒システムを開発。
・太陽光エネルギー変換効率(STH)注1)2.47%を実現することに成功し、実用化の目安とされる目標値5%へ大きく前進した。
・より大面積での屋外実験システムでは、STH 1.21%を1週間維持することに成功。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)太陽光エネルギー変換効率(Solar-To-Hydrogen conversion efficiency: STH):
入射した太陽光エネルギーが水素の化学エネルギーにどれだけ変換されたかを示す指標。生成された水素のエネルギー量を入射光のエネルギー量で割ることで求められ、一般にパーセント(%)で表される。STH効率が高いほど、より効率的に太陽光を利用して水素を生成できることを意味する。
注2)電子伝達材:
Zスキーム型光触媒システムにおいて、光触媒間の電子移動を担う物質。水素生成光触媒と酸素生成光触媒の間で電子の受け渡しを行い、効率的な水分解反応を促す。しかし、従来のシステムでは、電子伝達材の副反応が水分解反応と競合し、反応効率を低下させることが課題とされていた。

 

【論文情報】

雑誌名:Nature Communications
論文タイトル:A scalable solar-driven photocatalytic system for separated H2 and O2 production from water
著者:Hui Fu, Yaqiang Wu, Yuhao Guo, Takuya Sakurai, Qianqian Zhang, Yuanyuan Liu, Zhaoke Zheng, Hefeng Cheng, Zeyan Wang, Baibiao Huang, Qian Wang, Kazunari Domen, & Peng Wang 下線は名古屋大学
DOI: 10.1038/s41467-025-56314-x
URL: https://www.nature.com/articles/s41467-025-56314-x

 

【研究代表者】

大学院工学研究科 王 謙 准教授、主著者:呉 亜強 特任助教
https://www.material.nagoya-u.ac.jp/wang-lab/home/home_jp.html