名古屋大学大学院医学系研究科 循環器内科学の岩脇 友哉 研究生、柳澤 哲 特任講師、因田 恭也 准教授、室原 豊明 教授らの研究グループは、心房細動*1)に対するカテーテルアブレーション*2)後の抗凝固薬中止の可否とその予後について、1,821名を対象とした大規模な後ろ向き研究を通じて重要な知見を発表しました。
心房細動は遭遇する機会が多い不整脈の一つで、本邦で 100 万人以上の方が罹患しています。カテーテルアブレーション治療は心房細動を抑制する有効な治療法ではありますが、術後の抗凝固療法中止の可否については定まった見解はありません。本研究では、心房細動に対するカテーテルアブレーション初回治療後12ヶ月間再発や合併症が無い患者さんを対象に、抗凝固薬を中止した場合と継続した場合のリスクを様々な解析法を用いて比較評価しました。その結果、抗凝固薬中止により血栓塞栓症発症リスクが有意に増加する一方、継続群では出血イベントリスクが高いことが確認されました。特に、無症候性心房細動、左心房径*4)が拡大、心機能が低下している患者さんでは、中止による塞栓症発症リスクが高まる一方で、出血リスクの高い患者(HAS-BLED スコア*3)が2以上)では、服薬中止が有益となる可能性が示唆されました。本研究の結果は、これまでの抗凝固薬中止の指標となっていた血栓リスクスコアに加え、患者さんの背景因子や特徴、心機能の状態を含めて総合的に服薬継続の可否を考慮する重要性を示唆するものです。
本研究により、「患者さん一人ひとりの特徴に基づいた抗凝固薬治療の最適化」が求められることが明らかとなり、より安全で効果的なアブレーション後の抗凝固薬治療を実現できる可能性があります。また、心房細動治療後の患者さんの生活の質向上に寄与することが期待されます。
本研究成果は、2025 年 3 月 21 日付 (日本時間 3 月 22 日 1 時)米国医師会雑誌『JAMA Network Open』に掲載されました。
・心房細動に対するカテーテルアブレーション後の抗凝固薬中止の可否や基準については明確なコンセンサスは未だ得られていません。
・抗凝固療法の継続は、心房細動再発による塞栓症を予防する一方で、漫然とした処方継続は重篤な出血イベント発生のリスク上昇にもつながります。
・本研究グループは、心房細動に対するカテーテルアブレーション後の抗凝固薬中止の可否とその後のイベント発生について、多様な解析モデルを用いて層別評価を行い、抗凝固薬をより効果的で安全に継続または中止できる条件を明らかにしました。
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*1)心房細動:
心臓のリズムが不規則になる状態で、心房が速く不規則に動きます。これにより、血液がよどみやすくなり、血栓や脳梗塞のリスクが高まります。
*2)カテーテルアブレーション:
細い管(カテーテル)を血管から心臓に挿入し、不整脈の原因となる心臓の一部を焼灼して正常なリズムを取り戻す治療法です。
*3)HAS-BLED スコア:
出血リスクを評価する指標で、年齢や併存疾患、薬の影響などを点数化して計算します。スコアが高いほど、出血のリスクが高いとされます。
*4)左心房:
4つに分けられた心臓の中の部屋の一つで、主に心房細動が発生する場所が多い場所です。
雑誌名:JAMA Network Open
論文タイトル:Discontinuation of Oral Anticoagulation After Successful Atrial Fibrillation Ablation
著者:岩脇友哉、柳澤 哲、因田恭也、平松 慧、山内良太、宮前貴一、宮澤宏幸、後藤孝幸、近藤 俊、舘 将也、下條将史、辻󠄀 幸臣、室原豊明
DOI:10.1001/jamanetworkopen.2025.1320
English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Jam_250322en.pdf
大学院医学系研究科 柳澤 哲 特任講師
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_J/laboratory/endowed-chair/cardiovascular-therapeutics/