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化学

2025.04.17

1ナノ極薄触媒シートが水の解離を劇的に促進 燃料電池、CO₂回収など応用デバイス開発へ重要な一歩

名古屋大学未来材料・システム研究所(IMaSS)の山本 瑛祐 助教 長田 実 教授らの研究チームは、米国・ペンシルベニア大学のThomas E. Mallouk教授らとの国際共同研究により、ナノシート集積膜が、バイポーラー膜(BPM)における水の解離反応を大幅に促進することを実証しました
バイポーラー膜は、水を酸と塩基に解離して供給できる膜であり、水の電気分解、燃料電池など、次世代の電気化学エネルギー変換技術において近年急速に注目を集めています。しかし、バイポーラー膜のエネルギー変換技術応用には、水解離反応に必要な過電圧を下げることが大きな課題とされてきました。
本研究では、厚さ約1ナノメートル(10億分の1メートル)の酸化チタンナノシートを高密度に敷き詰めた膜をバイポーラー膜の界面に挿入することで、膜内部に極めて強い電場を生成し、水の解離を劇的に促進できることを発見しました。
今回開発したナノシート稠密配列膜触媒は、従来の酸化チタンナノ粒子触媒と比較して1000倍以上高い重量規格化電流密度を達成しています。これらの成果は、バイポーラー膜の設計において近年主流となりつつある数百ナノメートルの厚みのナノ粒子触媒層ではなく、「分子レベルの薄さ」と「セカンド・ウィーン効果注7)」を最大限に活かす新しいアプローチの可能性を示しています。本研究成果は、次世代の高性能バイポーラー膜やその応用デバイスの開発に向けて、極めて重要な一歩となると期待されます。
本研究成果は、2025年4月15日付(日本時間)米国化学会誌『Journal of the American Chemical Society』に掲載されました。

 

【ポイント】

・カチオン交換膜(CEM)注1)とアニオン交換膜(AEM)注2)を貼り合わせて作るバイポーラー膜(BPM)注3)における水解離反応(H2O→H+ + OH-)触媒として、酸化チタンナノシート注4)を活用。
・稠密(ちゅうみつ)に配列したナノシート膜をカチオン交換膜とアニオン交換膜の間に構築することで300mA/cm2で0.25Vの過電圧注5)を達成。
・従来のナノ粒子触媒と比較して1000倍以上高い重量規格化電流密度注6)を達成。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)カチオン交換膜(CEM):
負に帯電した固定基(通常はスルホン酸基など)を持ち、H+などの陽イオンのみを選択的に透過させる高分子膜。
注2)アニオン交換膜(AEM):
正に帯電した固定基(通常は第四級アンモニウム基など)を持ち、OH-などの陰イオンのみを選択的に透過させる高分子膜。
注3)バイポーラー膜(BPM):
カチオン交換膜とアニオン交換膜という、イオン選択性の異なる2種類の膜を積層して構成される複合膜。両膜の界面では、水分子が水素イオン(H+)と水酸化物イオン(OH-)に解離する「水解離反応(Water Dissociation)」が促進される。バイポーラー膜は水から酸と塩基を同時に生成できるため、水電解、燃料電池、二酸化炭素分離・回収、レドックスフロー電池など、多くのエネルギー変換・貯蔵技術への応用が期待されている。
注4)ナノシート:
原子1層、数層からなる物質。代表的な物質として、グラフェン、六方晶BN、遷移金属カルコゲナイド(MoS2、WS2など)がある。
注5)過電圧:
理論的な電圧に対して、実際に反応を進行させるために必要となる追加の電圧。過電圧が高いほど、エネルギー損失が大きくなる。
注6)重量規格化電流密度:
触媒の質量1gあたりの単位面積(通常1cm2)における電流密度(mA/cm2/g)を指す。触媒の活性を比較するための重要な指標であり、高効率な触媒ほどこの値が大きくなる。
注7)セカンド・ウィーン効果:
強電場中において、溶液中の電解質が通常よりも高い割合で電離する現象。バイポーラー膜界面での水解離反応の重要な理論的根拠となっている。

 

【論文情報】

雑誌名:Journal of the American Chemical Society
論文タイトル:Molecularly Thin Nanosheet Films as Water Dissociation Reaction Catalysts Enhanced by Strong Electric Fields in Bipolar Membranes
著者:Eisuke Yamamoto*(名古屋大学助教), Tianyue Gao, Langqiu Xiao, Kelly Kopera, Sariah Marth, Heemin Park, Chulsung Bae, Minoru Osada (名古屋大学教授), Thomas E. Mallouk*
DOI:https://doi.org/10.1021/jacs.4c17830                    

 

【研究代表者】

未来材料・システム研究所 山本 瑛祐 助教
https://mosada-lab-nagoya.com