代謝、免疫、内分泌などの生理機能は季節によってダイナミックに変化します。また、心疾患、脳血管疾患、インフルエンザ、精神疾患など、多くの疾患は冬に重症化し、死亡率も冬季に上昇しますが、それらの季節変化を制御する分子基盤は謎に包まれていました。
名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM※)および大学院生命農学研究科の吉村 崇 教授、陳 君鳳(チェン ジュンファン) 特任助教、沖村 光佑 博士、任 亮 博士らの研究グループは、京都大学 ヒト行動進化研究センターの今井 啓雄 教授、大石 高生 准教授、宮部 貴子 助教、龍谷大学農学部(現 名古屋大学生物機能開発利用研究センター)の永野 惇 教授らとの共同研究により、ヒトに近縁な霊長類のアカゲザルの全身80組織について、1年を通して網羅的な季節の遺伝子発現地図を作製し、さまざまな生理機能や疾患の1年のリズムを制御する分子基盤を明らかにしました。
本研究成果は、2025年4月28日18時(日本時間)に英国の科学雑誌「Nature Communications」でオンライン公開されました。
・ ヒトに近縁な雌雄のアカゲザルの全身80組織を1年を通して解析し、網羅的な季節の遺伝子発現地図を作製した。
・ 80組織における54,000個を超える遺伝子注1)を網羅的に調べ、季節変動遺伝子を同定することに成功した。
・ 季節の遺伝子発現地図によって、さまざまな生理機能や疾患の季節変化の分子基盤が明らかになった。
・ 薬の効果が季節によって変化する可能性を指摘するとともに、お酒の酔いやすさが冬と夏で変化することを明らかにした。
・ 今回同定した遺伝子の発現様式を、検索、ダウンロードできるウェブデータベースを構築した。
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注1)54,000個を超える遺伝子:
タンパク質に翻訳される遺伝子は種によって2~3万個といわれているが、広義にはタンパク質に翻訳されない非コードRNAや偽遺伝子などを含むDNA領域を指す。今回の解析では54,213個の遺伝子の発現を検出した。
雑誌名:Nature Communications
論文タイトル:Non-human primate seasonal transcriptome atlas reveals seasonal changes in physiology and diseases(非ヒト霊長類の季節の遺伝子発現地図は生理機能と病気の季節変化を明らかにする)
著者:Junfeng Chen1, Kousuke Okimura1, Liang Ren1, Yusuke Nakane1, Tomoya Nakayama1, Yang Chen1, Kai Fukawa1, Soutarou Sugiyama2, Takayoshi Natsume2, Naoko Suda-Hashimoto2, Mayumi Morimoto2, Takako Miyabe-Nishiwaki2, Takao Oishi2, Yuma Katada1, Manhui Zhang1, Kohei Kobayashi1, Shoko Matsumoto1, Taiki Yamaguchi1, Ying-Jey Guh1, Issey Takahashi1, Taeko Nishiwaki-Ohkawa1, Daiki Sato, Yoshiharu Murata, Kenta Sumiyama1, Atsushi J. Nagano, Hiroo Imai2, Takashi Yoshimura1 (陳 君鳳1、沖村 光佑1、任 亮1、中根 右介1、中山 友哉1、陳 曜1、府川 凱1、杉山 宗太郎2、夏目 尊好2、橋本 直子2、森本 真弓2、宮部 貴子2、大石 高生2、片田 祐真1、張 漫彗1、小林 耕平1、松本 昇子1、山口 大輝1、顧 穎傑1、高橋 一誠1、大川 妙子1、佐藤 大気、村田 善晴、隅山 健太1、永野 惇、今井 啓雄2、吉村 崇1)
1:名古屋大学 2:京都大学ヒト行動進化研究センター
DOI:10.1038/s41467-025-57994-1
※【WPI-ITbMについて】(http://www.itbm.nagoya-u.ac.jp)
名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)は、2012年に文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の1つとして採択されました。
ITbMでは、精緻にデザインされた機能をもつ分子(化合物)を用いて、これまで明らかにされていなかった生命機能の解明を目指すと共に、化学者と生物学者が隣り合わせになって融合研究を行うミックス・ラボ、ミックス・オフィスで化学と生物学の融合領域研究を展開しています。「ミックス」をキーワードに、人々の思考、生活、行動を劇的に変えるトランスフォーマティブ分子の発見と開発を行い、社会が直面する環境問題、食料問題、医療技術の発展といったさまざまな課題に取り組んでいます。これまで10年間の取り組みが高く評価され、世界トップレベルの極めて高い研究水準と優れた研究環境にある研究拠点「WPIアカデミー」のメンバーに認定されました。
トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)/大学院生命農学研究科 吉村 崇 教授
https://www.agr.nagoya-u.ac.jp/~aphysiol/