TOP   >   工学   >   記事詳細

工学

2025.05.15

リアル空間に「ナノ機械」を出現させるインタフェース --デバイス作製不要で分子やナノ材料の移動、サイズ分別が可能に--

名古屋大学大学院工学研究科の佐々木 建 博士後期課程学生と星野 隆行 教授の研究グループは、物理空間内にあたかもナノマシンが存在するかのように機能するインタフェースを開発し、任意の場所で二次元ナノ材料をサイズ分別することに成功しました。
二次元ナノ材料である酸化グラフェンは、サイズごとに細胞との相互作用が異なることが知られており、サイズごとに分別(分画)する技術が注目されています。従来のサイズ分画手法では、微細で複雑な構造をもつマイクロ流体デバイスをあらかじめつくる必要があり、細胞がいる場所など何の用意もないところでサイズ分画を実行することはできませんでした。
本研究グループは、電子線注4)走査パターンを動的に切り替えながら電場を呈示するインタフェースを開発し、マイクロ流体デバイスと同等の機能をもつ「ナノ機械」を出現させることに成功しました。呈示電場により生じた電気泳動力と電気浸透流を組み合わせることで、酸化グラフェンのシートがもつ表面電荷密度に応じたサイズ分画をする原理です。本研究の成果は、ナノデバイスの機構構造の作製を不要とし、プログラム可能な力場情報を生成することによって、材料フリーなモノづくりを創生する新しい技術に貢献するものです。
本研究成果は、2025年4月27日付の学術雑誌『Colloids and Surfaces A: Physicochemical and Engineering Aspects』オンライン版に掲載されました。

 

【ポイント】

・物理空間中にあたかも「ナノ機械」が存在するかのように出現させることに成功。
・任意の時刻と場所に、二次元ナノ材料のサイズ分別をする「マイクロ流体デバイス」を生成し、酸化グラフェン注1)のサイズ分別と操作を実証した。
・呈示する電場パターンの設計により、電気浸透流注2)と電気泳動注3)の同時制御が行われ、二次元ナノ材料のサイズ分画の機能が出現する。
・モノを作製せずとも、情報空間から物理空間に「ナノ機械」の機能を出現させられる。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)酸化グラフェン:
原子1層分の厚さをもつ二次元的な炭素材料。高い導電性や熱伝導性をもつグラフェンを酸化処理することで合成され、表面にはさまざまな酸素官能基をもっている。溶液への分散性が改善されたことによる細胞への分子送達や、光学特性を利用したバイオセンサ応用へ向けた研究に使われている。
注2)電気浸透流:
電場を与えたときに固液界面近傍の溶液が電場にしたがい移動する界面動電現象。シリンジポンプなどによる外部からの流体駆動が不要であり、分離・分析用のチップの小型化や分析時間の短縮に使われている。
注3)電気泳動:
電場を与えた時に荷電粒子が溶液中を移動する現象。ゲル内で核酸分子やタンパク質を分離するゲル電気泳動や、毛細管内で分子を分離輸送するキャピラリー電気泳動などに使われている。
注4)電子線:
負の電荷をもつ電子を高電圧によって加速し、ナノレベルまで集束させて照射する荷電粒子ビーム。極微再構造の観察や加工に使われている。

 

【論文情報】

雑誌名: Colloids and Surfaces A: Physicochemical and Engineering Aspects
論文タイトル: Size Fractionation of Graphene Oxide Sheets by Electron Beam-Addressing Localized Electrophoresis
著者: Ken Sasaki(名古屋大学), Takayuki Hoshino(名古屋大学) 
DOI: 10.1016/j.colsurfa.2025.137056

 

【研究代表者】

大学院工学研究科 星野 隆行 教授,主著者:佐々木 建 博士後期課程学生
https://sites.google.com/view/hoshino-lab/top