名古屋大学大学院理学研究科・トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM※)の上川内 あづさ 教授、マシュー スー 特任助教、大橋 拓朗 博士研究員(現ワシントン大学 生物学部)らの研究グループは、蚊の脳における聴覚情報処理を世界で初めて可視化しました。
蚊は、世界中でさまざまな感染症を媒介し、ヒトの命を最も奪っている動物の一つです。オスの蚊は、メスの羽音を頼りに配偶相手を探します。そのため、蚊の聴覚は繁殖を防ぐための有望なターゲットとして注目されています。しかし、これまで蚊の脳における音の情報処理機構の研究はほぼ手付かずの状態でした。
本研究では、ネッタイシマカの脳における聴覚応答を世界で初めて可視化することに成功しました。この方法を利用して、オスの脳はメスよりも多様な応答タイプの聴覚神経細胞を持つことを発見しました。さらに蚊の「耳」として機能する触角で、聴覚機能を担う分子群の発現量が、オスで増加していることを発見しました。
「オスはどのようにメスの微弱な羽音を検知するか?」は蚊の繁殖行動における大きな謎のひとつです。この謎に脳のレベルで切り込んだ本研究の成果は、蚊の繁殖メカニズムの解明と防除戦略の構築に大きく貢献することが期待されます。
この成果は2025年6月5日午前3時(日本時間)付国際科学雑誌「Science Advances」に掲載されました。
・蚊の脳がさまざまな音に応答する様子を世界で初めて観察し、雌雄で比較した。
・オスの脳では反応する音域が増大し、メスの脳よりも多様な応答性を持っていた。
・オスの「耳」では聴覚機能を担う分子群がメスよりも多く発現していた。
・蚊の繁殖の鍵となる、オスがメスの微弱な羽音を検知する仕組みの解明につながる。
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雑誌名:Science Advances
論文タイトル:Diversity and complexity of auditory representation in the hearing systems of Aedes aegypti mosquitoes
著者:大橋 拓朗※、YiFeng Xu※、志垣 俊介、中村 有紀子※、Tai-ting Lee※、YuMin Loh※、Matthew Su※、三城 恵美※、Daniel Eberl、Matthew Su※、上川内 あづさ※ (※ 名古屋大学関係者)
DOI: 10.1126/sciadv.ads2689
URL: https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.ads2689
※【WPI-ITbMについて】(http://www.itbm.nagoya-u.ac.jp)
名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)は、2012年に文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の1つとして採択されました。
WPI-ITbMでは、精緻にデザインされた機能を持つ分子(化合物)を用いて、これまで明らかにされていなかった生命機能の解明を目指すと共に、化学者と生物学者が隣り合わせになって融合研究をおこなうミックス・ラボ、ミックス・オフィスで化学と生物学の融合領域研究を展開しています。「ミックス」をキーワードに、人々の思考、生活、行動を劇的に変えるトランスフォーマティブ分子の発見と開発をおこない、社会が直面する環境問題、食料問題、医療技術の発展といった様々な課題に取り組んでいます。これまで10年間の取り組みが高く評価され、世界トップレベルの極めて高い研究水準と優れた研究環境にある研究拠点「WPIアカデミー」のメンバーに認定されました。