・レニウム原子が異方的三角形格子のネットワークを持つ全7種類の新物質群の開発に成功。
・フラストレーションを利用した磁性の一次元化機構によって朝永(ともなが)-ラッティンジャー液体状態を実現。
・複合アニオン化合物において、元素置換により磁性を自在に制御するための物質開発指針を与える。
東京大学物性研究所の厳正輝助教、小濱芳允准教授、河村光晶助教(研究当時)、廣井善二教授、名古屋大学大学院工学研究科の平井大悟郎准教授、矢島健准教授、東北大学大学院理学研究科の森田克洋助教、同大学多元物質科学研究所の那波和宏准教授、佐藤卓教授、高エネルギー加速器研究機構の幸田章宏教授、日本原子力研究開発機構J-PARCセンターの古府麻衣子研究副主幹(研究当時)らの共同研究グループは、磁性を持つレニウム原子が異方的に歪んだ三角形格子のネットワークを持つ複合アニオン化合物(注1)の開発に成功し、非磁性元素の置換によって磁気的性質を自在に制御できることを明らかにしました。
本研究では全7種類の新物質群を合成し、その磁気的性質を詳細に調べたところ、いずれの物質も低温で「磁性の一次元化」(注2)と呼ばれる現象が起きることが明らかになりました。さらに、一部の物質では極低温まで磁気相転移を起こさず、朝永-ラッティンジャー液体(注3)状態を実現することを見出しました。
本研究成果は、2025年11月26日付(現地時間)の英国科学誌Nature Communicationsに掲載されます。
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(注1)複合アニオン化合物
通常の酸化物やハロゲン化物とは異なり、複数の種類の陰イオン(=アニオン)を構成元素に含む化合物。本研究で開発した物質では、酸素イオンに加えて塩素イオンもしくは臭素イオンが含まれ、レニウム原子の周りを取り囲んで特殊な結晶構造を形成している。
(注2)磁性の一次元化
磁気的なフラストレーションを有する二次元もしくは三次元の格子ネットワークを持つ系において、スピン状態の競合や揺らぎによって一方向にだけ強い磁気的な相関が実効的に働くことによって、一次元のスピン鎖で見られる磁気的振る舞いが観測される現象。
(注3)朝永(ともなが)-ラッティンジャー液体
一次元スピン鎖に特有の「秩序なき量子状態」である。電子スピンが「スピノン」と呼ばれる分数化した励起として振る舞い、相関が距離とともにべき乗で減衰する性質を持つ。中性子散乱では連続体スペクトルとして観測され、低温の比熱は温度に比例する。本研究では、これらの特徴が全て実験的に観測された。
雑誌名:Nature Communications
題 名:Chemically tunable quantum magnetism on the anisotropic triangular lattice in rhenium oxyhalides
著者名: M. Gen*, D. Hirai, K. Morita, K. Nawa, S. Kogane, N. Matsuyama, T. Yajima, M. Kawamura, K. Deguchi, A. Koda, M. Kofu, S. Ohira-Kawamura, T. J. Sato, A. Matsuo, K. Kindo, Y. Kohama, and Z. Hiroi
DOI: 10.1038/s41467-025-65913-7
URL: https://doi.org/10.1038/s41467-025-65913-7
(平井先生)https://mag.nuap.nagoya-u.ac.jp/index.html
(矢島先生)https://www.material.nagoya-u.ac.jp/LIB/index.html