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医歯薬学

2025.11.27

慢性腎臓病と要介護リスクの関連性が明らかに ~運動習慣がリスク低減に有用であることも示唆~

【ポイント】

・慢性腎臓病(CKD)注1)は人工透析のリスクとなるだけでなく、高齢者における要介護リスクにも関連。

・CKDによる要介護リスクの上昇は、日々の運動習慣で抑えられる可能性を示唆。

・血清クレアチニン値は要介護リスクとJカーブ型に関連 (低すぎてもリスクに)。

 

名古屋大学大学院医学系研究科 実社会情報健康医療学の大橋 勇紀 助教、中杤 昌弘 准教授、同大学医学部附属病院先端医療開発部の杉下 明隆 病院助教、同大学院医学系研究科附属医学教育研究支援センターの加藤 佐和子 特任准教授、水野 正明 特任教授(研究当時所属:同大学医学部附属病院先端医療開発部長)らの研究グループは、北名古屋市の行政データを活用したリアルワールドデータ注2)解析を実施し、高齢者における慢性腎臓病(chronic kidney disease: 以下、CKD)と要介護リスクとの関連を明らかにしました。

解析の結果、腎機能の低下(KDIGO分類: 血清クレアチニン値と尿タンパクによる評価)が高いほど、要介護となるリスクが上昇することが分かりました。さらに、週2回以上・1回30分以上の運動習慣がある場合、そのリスクを低減する可能性が示されました。これらの結果は、腎機能の早期評価と予防的介入が、末期腎不全の予防だけでなく、将来的な要介護状態の回避にもつながる可能性を示唆しています。

また本研究では、血清クレアチニン値と要介護リスクとの間にJカーブ型の関連がみられました。これは、見かけ上の推算糸球体ろ過量の値が良好でも、筋肉量の少ない高齢者では腎機能を過大評価してしまい、CKDに関連した要介護リスクを見逃してしまう可能性があることを示しています。

本研究は、東海介護予防コホート研究(TC-LongCare: Tokai Cohort for the Prevention of Needs for Long-Term Care)の一環として、地方自治体との協働により(行政データの活用)、CKDと介護リスクを統合的に評価しました。このような行政と大学の連携によるリアルワールドデータ解析は、地域包括ケアや健康寿命延伸を目指した公衆衛生政策への応用が期待されます。本研究の結果は、2025年11月21日付けで国際雑誌「BMJ Public Health」に掲載されました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)慢性腎臓病(CKD):

CKDとは、腎臓の働き(老廃物の排泄、体液・電解質バランスの調整、血圧調節など)が持続的に低下した状態を指す。CKDは初期には自覚症状がほとんどないまま進行することが多く、進行すると人工透析や腎移植が必要となる場合がある。また、単に腎臓の問題にとどまらず、心血管疾患のリスク増大やフレイル、サルコペニアなど、多方面の健康問題との関連も報告されている。高血圧や糖尿病、肥満などの生活習慣要因との関係も強く、早期発見と進行予防が重要視されている。

注2)リアルワールドデータ:

リアルワールドデータとは、実際の医療現場や日常生活の中で得られる“生のデータ”のこと。臨床試験のように厳密に条件を整えて収集されたデータとは異なり、現実社会で起きている状況をそのまま反映した情報を指す。情報化社会が進む現在、医療・公衆衛生・政策立案などの分野において、その重要性はますます高まっている。

 

【論文情報】

雑誌名:BMJ Public Health

論文タイトル:Chronic Kidney Disease Progression, Long-term Nursing Care Burden and Habitual Physical Activity: An Observational Study in Japan

著者:大橋 勇紀杉下 明隆黒川 晴香、堀 容子、加藤 佐和子水野 正明中杤 昌弘* (下線は本学関係者、*は責任著者を示す)

DOI:10.1136/bmjph-2025-003138 

URL:https://doi.org/10.1136/bmjph-2025-003138

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 中杤 昌弘 准教授, 主著者:大橋 勇紀 助教, 杉下 明隆 病院助教
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