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複合領域

2026.01.13

緑内障インプラント(マイクロシャント)の術後管理に新知見~マイクロシャント露出時は油性眼軟膏の使用を避けるべき~

【ポイント】

・油性眼科用軟膏による緑内障注1)インプラント注2)(マイクロシャント注3))膨潤注4)の初報告。
・臨床・実験の両面からマイクロシャントの膨潤を実証。
・術後、マイクロシャントが露出している時は、油性眼軟膏の使用を避けることを推奨。

 

名古屋大学医学部附属病院の冨田 遼 助教、井岡 大河 病院助教、名古屋大学大学院医学系研究科の結城 賢弥 准教授らの医学系研究グループと、名古屋大学大学院工学研究科の梶田 貴都 研究員、野呂 篤史 講師(未来社会創造機構マテリアルイノベーション研究所および脱炭素社会創造センター兼務)らの工学系研究グループは、共同研究により、眼科において広く使用されるワセリン注5)を基剤注6)とする軟膏が、緑内障手術用インプラント「プリザーフロ® マイクロシャント 緑内障ドレナージシステム」(以下、マイクロシャント)と接触した場合に、マイクロシャントを膨潤させ、形状や硬さを変化させることを、臨床例と実験室での評価の双方から初めて明らかにしました
マイクロシャントは、生体適合性注7)と柔軟性に優れたスチレン系熱可塑性エラストマー注8)の一種である SIBS注9)を素材とした緑内障治療用のろ過インプラントで、眼圧注10)を下げる目的で世界60カ国以上で使用されています。

今回、本共同研究グループは、ワセリンを基剤とした眼軟膏への曝露後にマイクロシャントが膨潤する、臨床的および実験的証拠を確認しました。この結果から、マイクロシャント挿入術後に結膜注11)からマイクロシャントが露出している場合、ワセリンなどの油性基剤を用いた眼軟膏の使用は避けることが望ましいと考えられます。
本研究成果は、1854年創刊でドイツ眼科学会およびイタリア硝子体網膜外科学会の公式ジャーナルである、眼科学分野の国際的学術誌『Graefe's Archive for Clinical and Experimental Ophthalmology』 に、2026年1月13日付で掲載され、オープンアクセス論文として公開されました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

 

【用語説明】

注1)緑内障:
眼の中の神経が薄くなり、見える範囲(視野)が徐々に欠けていく進行性の病気。日本の失明原因の第1位であり、40歳以上の約5%が罹患していると報告されている。
注2)インプラント:
人工の材料で作られ、体内に埋め込んで使用する医療器具。
注3)マイクロシャント:
正式名称はプリザーフロ® マイクロシャント 緑内障ドレナージシステム。眼圧を下げるために眼内に挿入する細いチューブ状の医療器具。眼の中の水(房水)を眼の外(結膜の下)へ流す通り道を作ることで眼圧を下げることができる。
注4)膨潤(ぼうじゅん):
物質が液体などを吸収して、体積が増加(膨らむ)する現象。
注5)ワセリン:
石油由来の成分(炭化水素類の混合物)を精製して得られる保湿剤。眼科用軟膏(眼軟膏)の基剤として広く使用されている。
注6)基剤:
薬の成分を混ぜ込むベースとなる成分。
注7)生体適合性:
人工材料を体内に入れた際、拒絶反応や炎症などを起こしにくく、生体組織と調和して安全に機能する性質。
注8)スチレン系熱可塑性エラストマー:
プラスチック成分であるポリスチレンとエラストマー成分(ゴム成分)を繋いだポリマー。加熱すると加工でき、冷えると弾性を示し、柔軟性と成形性を兼ね備えている。
注9)SIBS(スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体):
マイクロシャントの素材となっている熱可塑性エラストマー。体内で劣化しにくく、心臓の冠動脈ステントにも使用されている。柔軟で生体になじみやすい反面、油になじみやすく、油分を取り込みやすい化学的性質を持つ。
注10)眼圧:
眼の中を満たしている水(房水)による圧力。
注11)結膜:
白目の表面を覆う薄い膜。

 

【論文情報】

雑誌名:Graefe's Archive for Clinical and Experimental Ophthalmology
論文タイトル:Petrolatum-based ointment application induces swelling of the PRESERFLO MicroShunt
著者:冨田 遼(名古屋大学医学部附属病院 助教)、井岡 大河(名古屋大学医学部附属病院 病院助教)、梶田 貴都(名古屋大学大学院工学研究科 研究員)、清水 英幸(名古屋大学医学部附属病院 助教)、鈴村 文那(名古屋大学医学部附属病院 病院助教)、武内 潤(名古屋大学医学部附属病院 病院助教)、松野 剛之(名古屋大学大学院医学系研究科 大学院生)、稲見 英和(名古屋大学大学院医学系研究科 大学院生)、西口 康二(名古屋大学大学院医学系研究科 教授)、野呂 篤史(名古屋大学大学院工学研究科及び未来社会創造機構 講師)、結城 賢弥(名古屋大学大学院医学系研究科 准教授)        
        
DOI: 10.1007/s00417-025-07075-2

URL: https://link.springer.com/article/10.1007/s00417-025-07075-2

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 結城 賢弥 准教授, 大学院工学研究科 野呂 篤史 講師, 主著者:医学部附属病院 冨田 遼(助教)

(結城准教授、冨田助教)https://med-nagoya-ganka.jp/about/staff
(野呂講師)https://phys-chem-polym.chembio.nagoya-u.ac.jp/