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医歯薬学

2026.03.13

がん免疫療法CAR-Tの効果を支える新しい仕組みを発見~コレステロール生合成がCAR-T細胞の長期活性を保つ鍵に~

【ポイント】

・CAR-T細胞療法*1の効果が長く続く仕組みの一端を明らかにしました。

・CAR-T細胞の働きを維持するために、コレステロール*2をつくる代謝*3経路が重要な役割を果たすことを発見しました。

・患者データの解析と細胞実験の両方から、この代謝経路がCAR-T細胞の持続性と関連することを示しました。

・今回の成果は、CAR-T細胞療法の効果をさらに高める新しい治療戦略の開発につながる可能性があります。

 

名古屋大学大学院医学系研究科 血液・腫瘍内科学の竹内裕貴 大学院生、葉名尻良助教、寺倉精太郎 講師、清井仁 教授らの研究グループは、がん免疫療法*4で用いられるCAR-T細胞が体内で長く働き続けるための新たな仕組みを明らかにしました。

 

CAR-T細胞療法は、患者自身の免疫細胞(T細胞*5)を体外で遺伝子改変*6し、がん細胞を効率よく攻撃できるようにしてから体内に戻す治療法で、特に一部の血液がんに対して高い治療効果を示しています。一方で、治療後にCAR-T細胞がどれだけ長期間体内に残り、働き続けるかには個人差があり、その違いが治療効果の持続性に影響すると考えられてきました。しかし、CAR-T細胞の持続性を左右する具体的な生物学的仕組みについては、これまで十分に分かっていませんでした。

 

本研究では、CAR-T細胞の遺伝子発現*7やタンパク質の変化を網羅的に解析するとともに、細胞実験や患者データの解析を組み合わせることで、CAR-T細胞の中で「コレステロールを作る働き(コレステロール生合成)」が重要な役割を果たしていることを突き止めました。コレステロールは一般に生活習慣病との関連で知られていますが、細胞の膜を構成したり、細胞の増殖や機能維持に関わったりするなど、細胞の正常な働きにも欠かせない物質です。本研究では、コレステロール生合成に関わる代謝経路が活発なCAR-T細胞ほど、増殖能力や機能が維持されやすく、体内で長く生存する可能性が高いことが示されました。さらに、この代謝経路を薬剤で調節すると、CAR-T細胞の増殖や機能に変化が生じることも確認され、コレステロール代謝がCAR-T細胞の働きを制御する重要な要因であることが明らかになりました。

 

これらの成果は、CAR-T細胞の代謝状態を調整することで、治療効果をより長く持続させる新しい治療戦略の開発につながる可能性を示すものです。本研究により、より効果が長く続くCAR-T細胞療法の開発や、患者ごとに最適な治療を選択するための新しい指標の確立につながることが期待されます。

本研究成果は、2026年3月12日付(日本時間3月12日9時15分)国際科学雑誌『Journal for ImmunoTherapy of Cancer』に掲載されました。

 

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【用語説明】

(*1)CAR-T細胞療法:T細胞に特定の腫瘍抗原を認識するキメラ抗原受容体を導入し、がん細胞を攻撃させる免疫療法のことです。
(*2)コレステロール:細胞の膜を作る重要な成分で、細胞の増殖や機能維持にも関わる物質です。体内で合成されるほか、食事からも取り込まれます。
(*3)代謝:細胞が生きて働くために必要なエネルギーや物質を作り出したり分解したりする一連の化学反応のことです。
(*4)免疫療法:体が本来持っている免疫の力を利用して、がん細胞を攻撃・排除する治療法の総称です。CAR-T細胞療法もその一つです。
(*5)T細胞:体内に侵入したウイルスや異常な細胞(がん細胞など)を見つけて攻撃する、免疫の中心的な役割を担う白血球の一種です。
(*6)遺伝子改変:細胞のDNAに新しい遺伝子を加えたり、働きを変えたりする技術で、CAR-T細胞療法ではCARを作る遺伝子をT細胞に導入するために用いられます。
(*7)遺伝子発現:DNAに書かれた情報をもとに、細胞内でタンパク質が作られる過程を指します。どの遺伝子がどの程度働いているかを示す指標になります。

 

【論文情報】

雑誌名:Journal for ImmunoTherapy of Cancer
論文タイトル:CD79A/CD40 Intracellular Domain Utilizes a 4-1BB-Like Metabolic Pathway Driven by Cholesterol Biosynthesis
著者:Yuki Takeuchi1, Seitaro Terakura1, Kohei Ishigiwa1, Jakrawadee Julamanee1,2, Shiho Hirano1, Hirofumi Yokota1, Shihomi Kuwano1, Ryo Hanajiri1, and Hitoshi Kiyoi1
1Department of Hematology and Oncology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
2Stem Cell Laboratory, Hematology Unit, Division of Internal Medicine, Faculty of Medicine, Prince of Songkla University, Hat Yai, Thailand

 

DOI:10.1136/jitc-2025-012309

URL:https://jitc.bmj.com/content/14/3/e012309

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 清井 仁 教授
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/hematology/